「若、」




凛とした綺麗な声が耳に届く。
夏、だからと言って眩しいのは太陽だけではない。それは先輩に出会ってからやっと気付いた事で、先輩相手じゃなければ思わなかった事だと思う。
俺の姿を見つけて、満足気に笑う先輩の額にうっすら光る汗が目に付く。ああ走ってきたのか、そう思うだけで俺の心は少しだけ暖かさを増した。もちろんこれも、先輩に出会ってから知った感情の一つだ。




「やーっと見つけた」




ニカッと白い歯を見せながら笑う先輩。屋上へ続く階段の一番上に座る俺の、その隣に先輩も座る。荒い息を整えるように、一息吐く姿にも、鼓動は早まって……って、今日はどうかしている。普段の俺は、こんな俺じゃない筈なのに。




「何か用ですか」

「え?若が何かあるんじゃないの?」

「は?」

「さっき、中庭で見てたでしょ?」




首を傾げる先輩の言葉に、俺は返す言葉に悩んでしまった。
ついさっき、先輩が告白されている現場に遭遇してしまった事よりも、何よりも、逃げるようにその場を離れた俺の存在に、先輩が気付いていたことが恥ずかしい。




「別に…ただ通りかかっただけです。アンタが告白されてるなんて知ってたら、わざわざあんな所通りませんよ」

「そうなの?珍しく、若があたしのこと探してくれたのかと思ったのに」

「違います。それより、良いんですか?さっきの男の側に居なくて」

「へ?何で」

「…野暮な事言わせないで下さい」




そう紡げば、先輩は何故かにやりと笑った。絶対、何か企んでいるな。




「ふふ、どっちにしたと思う?返事」

「……どっちでもいい。俺には関係無いじゃないですか」

「もう…わかった、聞き方を変えてあげる。若はどっちにしてほしい?」




だから、どっちにしろ何故俺に聞くんだ、とは言えなかった。
明らかに俺の反応を楽しんでいるような先輩だけれど、この人相手に抱いている気持ちくらい、俺自身、もう自覚はしていた。まさか自分がこんなに恋愛云々に対して溺れてしまうなんて、予想外だったけれど。
そう頭で考えながら、思わず溜め息を零すと、先輩は何を勘違いしたのか急に大人しくなって、俺の顔色を伺うように恐る恐る言葉を紡ぐ。




「ご、ごめん…ね?あの、ちょっとからかっただけっていうか、」

「…ハァ?何言ってんですか、今更」

「怒ってるんじゃないの…?」

「怒らせるってわかってるなら、そんな事しないで下さい」

「う…だって、若のことからかうの好きなんだもの」

「俺だって好きですよ、先輩のこと」

「そう……ん?んん!?ちょっ、えっ!?」




一瞬の内に、先輩の顔が耳まで真っ赤に染まり上がったかと思えば、見た事もないくらい素早い動きで反対側の壁際まで距離を置かれた。




「何逃げてるんですか」

「だって…わ、若が…っ!」

「しょうがないでしょう、先輩が好きなんですから」




言葉も出ない口をぱくぱくと開閉させる先輩に、俺がもう一度告げれば、益々顔を赤く染めて。思わぬ反逆に、打つ手は考えていなかったのか慌てふためく先輩の姿は、中々見ることが出来ない姿で、素直に可愛いと思ってしまった。
しかし、その瞳から大粒の涙が溢れ出した事に気付いて、今度は俺が慌てる番だ。




「なっ…何で泣くんですか!」

「若のせいだよ…!こんな、いきなりなんて、心の準備できな…っ」

「心の準備って…きっかけ作ったのは先輩でしょう」

「うう…若の告白は、もっと、ちゃんとしたとこが良かったのに…」




次々と溢れる涙を手の甲で必死に拭う先輩の言葉に、状況を思い返せば、確かにムードも何も無いかもしれない。大体、告白なんて生まれて初めてなんだから、仕方ないじゃないか。第一そんなロマンチックな事を、俺に求めるのが間違っているだろう。
それでもグズグズと泣く先輩の姿に、俺はひとつ溜め息を吐くと、腰を浮かせて空いていた距離を詰める。それから、腕を伸ばしたものの何度か躊躇して、ようやく、先輩のことを抱きしめた。




「…これで、いいですか」




そう紡いでから、腕の中に収まった先輩が小さく頷くのと、俺の背中に手を回したのを確認して、今度は、しっかり抱きしめる。
鼻先に触れた先輩の髪からは、少しだけ甘い匂いがする。




「早く、泣き止んで下さい」

「…が、がんばる……」

「泣き止むまでは、幾らでもこうしててあげますから」

「――…ッもう、若に優しくされると泣いちゃうんだってばぁ、若のバカ…っ!」

「ハァ?って…何でまた泣くんですか!」




一応気を遣って、背中を摩ってあげたり頭を撫でてあげたりしたものの、それは全て裏目に出てしまい。先輩はわんわんと泣き出すわ、八つ当たりのように背中に回した手で俺の事を叩いたり、とそれはもう散々な思いをした。




「あ、あたしも…好きだよ、若…でも優しくしないで…っ」

「そんなの無理に決まってるじゃないですか」




それでも、先輩の事を邪険に扱えない辺り、俺はこの人に心底溺れてしまっているのだと、確信させられて。
密着した体温に早まる鼓動と、赤くなった顔がばれないように、俺はひたすら冷静を装い続けた。





くなんて反則でしょう
(涙でぐしゃぐしゃになった顔さえも愛しく思えるなんて、これだから初恋は)



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2009.08

企画サイト「初恋症状」様に提出させて頂きました。

まともに日吉を書いたのが実は初めてでした…。
最初は誰を書こうかすっごく悩んだのですが。日吉の恋愛云々について妄想をしたら意外と盛り上がったので日吉に決定しました^^*
言葉遣いやら何やら偽者になってそうで、すごく不安。

参加出来た事が嬉しく、とても光栄に思います!
読んで下さいまして、ありがとうございました。



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