甘えるってどうすればいい? (マサ→蘭拓)





最初はただ、うざいっていう感情しかなかった。

それなのに。


「神童!今日のメニューは?」

『今日はまず、同じポジション同士で1対1、その後フットワークとしてダッシュを……』

「うげ、ダッシュすんの?」

『全国大会で勝ち進む為にも、スピードは必要だからな。』

「そうだよなー…よし!早く始めようぜっ!」


どうしてこんなにモヤモヤするんだろう。


俺には絶対あんな笑顔見せてくれないし、別に俺も見せる気なんてない。
だけど、ああいう風に霧野先輩も笑うんだなんて思ってしまう、あの笑顔を間近で見れるキャプテンを羨ましく思ってしまう俺がいる。


『さっそく1対1の相手を言うぞ!まず、信助と車田先輩!次に霧野と狩屋!それから――』


キャプテンに名前を呼ばれてから数秒後、霧野先輩と視線が合った。
相変わらず、鋭い視線で睨んでくる。
だから俺は挑発的な視線で返す。こんなのはいつものことだ。

全員配置につけ、というキャプテンの声で俺と霧野先輩は真っ正面に立つ。


「全国大会前だからな、あまりラフなプレーはするなよ。」

「霧野先輩こそ下手なんだから俺に怪我させないように気をつけて下さいね、大会前なんですから。」

「お前なっ…………!」


俺のどこかに、俺じゃない俺がいる。
気づいてほしいなんて思う俺がいる。
霧野先輩に突っ掛かるのは、最初はただ気に食わなかったからなのに、今では俺を見てほしいからになりつつある。
こんなの、嫌われる一方だってわからってる。

それでも―――。


「霧野先輩、それでもレギュラーですか?本当、下手ですね。」

「いい加減にしろよ。」

「これじゃあ雷門のお荷物じゃないですか。」

「どうしてお前はそんなことしか言えないんだ?天馬や信助みたいな可愛さのカケラもない、嫌な奴だよ。」

「余計なお世話ですね。ただ、本当のことを言っているだけじゃないですか。」


甘え方がわかんないから。
あいつらみたいに可愛くないことも自覚してる。普段の俺は、別人であって俺じゃない。


「霧野先輩って、キャプテンのこと好きなんでしょう?」


この言葉を口にした途端、霧野先輩の動きが止まった。


『霧野ー!どうしたんだ!?』

「あっ、ああ!なんでもない!」


明らかに動揺していた。


「ホラ、そんな感情、キャプテンの足を引っ張るだけじゃないですか。」


わかってるんだ、そんなことを言ったところで



霧野先輩は俺の物にはならないことくらい。



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