四天宝寺と試合が終わって、決勝進出を決めた僕たち。
先生との約束があったから、お祝いに焼肉に行くことになった。
それまで時間があるからいったん家に帰って体を休めようとした時。
僕の携帯が鳴り出した。
電話をしてきたのは、あの生意気ルーキー。
「アンタ、ずいぶんケロッとしてたね。」
「そう?これでもすごい悔しかったんだけどなぁ。」
「ふーん。まぁいいや。それよりさ、今時間ある?」
「今?別に大丈夫だけど…」
「じゃあさ、来てくれないかな。青学。」
「学校に…?うん、わかった。」
そんな会話をしてから、学校に向かった。
そこには越前がテニスラケットとボールを持って待っていた、というよりはおそらくまだ家に帰ってないのだろう。
「あ、不二先輩。」
「どうしたの、ずいぶん急に。」
「テニス、しましょうよ。」
「でも、ラケットが…」
「俺の使えばいいじゃん。」
なりゆきで越前と試合をすることになった。越前と試合をするのは二度目になる。
「一球勝負。あの時の決着、つけようよ。」
彼の言葉とともに、お得意のツイストサーブが来る。
「懐かしいね、君と試合するのって。」
「そうっスね。」
学校のテニスコートに僕たちの声とボールがラケットに当たる音が響く。
「アンタさぁ、あれでも悔しかったって言ったよね」
「え…」
「悔しかったんなら、もっと表にだしてもいいんじゃない?」
「それっていったい…」
「少なくとも俺の前では我慢しないでよ。」
トン、トン、トン…とボールの転がる音がする。
「俺の勝ち。」
そういってネットを越えて僕の前に越前が現れる。
16pも身長差があるというにもかかわらず、越前は僕をそっと抱きしめた。
「ねえ、我慢しないでよ。泣けばいいじゃん。悔しかったなら、泣けばいいじゃん。」
「えちぜ…」
その言葉を聞いた瞬間、僕のなかでピンと張り詰められていた糸が緩んだからかもしれない。安心したからかもしれない。
自然と涙がこぼれた。
堪えきれなくなって、声をあげて泣いた。
こんなに泣いたのはいつぶりだろう。
いや、こんなに泣いたことなんておそらく一度もない。
「もっと俺には先輩の素を見せてよ。」
「うん…ありが、と」
「泣いた分、笑わないとね。」
「…どういうこと?」
「決勝戦、笑うのは俺らだから。」
「ふふっ、そうだね。」
たくさん泣いて、笑って、それから
「越前!」
「なんスか?」
―あ り が と う―
-end-