ちょっと待ってくれ。理解できない。
「えっと、つまり駆は、このまま鎌学の高等部にあがるんじゃないってことか?」
「そういうことになるね…」
駆の言葉を俺の脳は理解しようとしているんだが、俺の思考が追いついてくれない。
「なんで急に…」
そうだ、急すぎる。それに俺と駆が話している、この瞬間は江ノ高の受験当日の朝だって?もう意味がわからない。
「本当、急だよなー。」
「だって、このまま鎌学にいれば傑さんみたいなサッカーをっ―」
「それじゃ駄目なんだよ、祐介。」
「え……?」
「兄ちゃんと同じじゃ駄目なんだ。俺は、兄ちゃんを越えてみたい。」
傑さんを越える?鎌学にいたら、傑さんは越えられないのか?わざわざ受験を受けて落ちたらどうするんだ?
様々な思いが俺を駆け巡る。
だけどそれは、俺が駆と離れたくないためだけに浮かんでくる言葉なんだ、それくらい俺にだってわかる。
でも、それでも俺は駆と離れたくない。
「祐介、俺も寂しいんだよ?でも、やっと兄ちゃんと、サッカーと向き合ってみたくなったんだ。」
"サッカーと向き合う"
この言葉を聞いた瞬間、もう駆の意思が固まっていることに気がついた。
きっと駆だって、悩んで決めたにちがいない。
そんな駆を、俺が引き止めていいわけがない。
「わかったよ、駆。行ってこい!」
「祐介…」
「俺、応援するからさ。つっても、受かったらの話だけどな!」
「ちょっと、プレッシャーかけるなよっ!」
「大丈夫、お前ならいけるって!」
「だといいんだけどっ」
こうなったら、俺は全力で駆を応援する。
高校が同じじゃなくなるのはつらいけど。
「そうだ、駆。」
「んー?」
「卒業式、第二ボタン予約しとくから誰にも渡すなよ?」
「なっ…当たり前だよ!祐介こそ、絶対に誰にも渡すなよなっ!」
「馬鹿、誰がお前みたいな間違いするかっつーの。」
今はただ、こうして笑い合えてることに感謝しよう。
時がたって次に会うのは、敵としてかもしれないけど。
必ず、ピッチで会おうと約束して、歩き出した駆の背中を見つめていた。
-end-