僕は知っている。
みんなが僕を"ヒロト"と呼ぶ。僕の名前は基山ヒロト。だけど、知っているんだ。
"ヒロト"は、僕の本当の名前じゃないってことを。
"ヒロト"は、父さんの本当の息子の名前で、僕はその"ヒロト"に似てるらしい。
今日も代表強化合宿が終わり、自室に戻ろうとしたとき。
「なあなあ、ヒロト!」
「どうしたの、円堂くん。」
「昨日な、母ちゃんから聞いたんだけどさー、自分の名前ってあるじゃん?それは、親の思いと愛情がこめられてるんだって!」
「………そう、なんだ。」
「で、俺の守って名前は、どんな人でも守れるように、自分の大切な人を守れるようにって思いがこめられてるらしいんだ!名前って深いよなあ…」
そして円堂くんは、キラキラの笑顔で僕に「ヒロトって、いい名前だよな!どんな思いがこめられてるんだ?」なんて聞いてきたたから、「ありがとう、聞いたことないから、考えてみるよ。」と笑顔で答えた。
僕の名前にこめられた思いなんて、あるのかな。ただ、僕は亡くなった吉良ヒロトの変わりなのかもしれないのに。
さっきの円堂くんの言葉が、ずっと頭から離れない。そのことばかりを考えているうちに、自室についた。何もする気になれず、そのままベッドに身を投げ出す。
「……兄さん、僕はただ兄さんの…吉良ヒロトの変わりなのかい?」
エイリア学園にいたときから、バーンやガゼルには「父さんのお気に入りだ」って言われていた。きっとそれも、同じ理由なのだろう。
「僕は…基山………」
「ヒロトはヒロトだよ。」
いきなり声がして驚いた。声の主は緑川だった。
「緑川…どうしたんだい?」
「ごめん、全部聞いてた。円堂との会話も…」
「そっか。入りなよ。」
緑川を部屋に入れると、俺の横にちょこんと座った。そして、
「俺さ、いや、俺達はさ。親がいなくておひさま園で過ごしてきた。父さんがいて、瞳子姉さんがいて、みんながいて。俺にとってはもう家族みたいなものなんだよね。」
「家族…」
「だからさ、ヒロトって名前が、父さんの本当の息子の名前だったとしても、吉良ヒロトと基山ヒロトは違うと思う。今、俺の目の前にいるのは、吉良ヒロトじゃない。基山ヒロトなんだ。だから、悩む必要なんて、無いんじゃないかな…」
「緑川…うん、ありがとう。僕は僕、なんだよね。」
そういって、僕は緑川に微笑んだ。緑川も僕に、優しく微笑んでくれた。血の繋がりこそはないけれど、僕達はもう家族なんだ。
きっと、兄さんも。
その日はそのまま、緑川とおひさま園の話をして、眠りについた。次の日、僕は円堂くんにこう言った。
「僕の名前、ヒロトにこめられた思い。それは"絆"なんじゃないかって、僕は思う。」
兄さんと僕、僕と父さん、父さんと兄さん。
そして、おひさま園のみんなを繋ぐ"絆"。
-end-
頑張れば基緑にも吉良基山にも取れるので、あえて表記はしませんでした。