届きそうで届かない。
あと1o、たった1oだけなのに。
俺の学校は今、明日の文化祭準備真っ只中。
「駆…一緒にまわれるかな…」
去年は俺が忙しかったのと、駆が傑さんと一緒にまわったってこともあって一緒にまわれなかったから今年こそは。
そう思った矢先、
「あっ!祐介ーっ!」
駆が手をブンブン振りながら俺の方に駆け寄ってきた。
「ちょうど良かったよ、駆。」
「俺も祐介に用があったんだ!で、祐介の言いたいことって?」
「えっと…文化祭、良ければ一緒にまわらないか?その…去年は忙しくてそれどころじゃなかっただろ?」
「俺もそれを言おうと思ってたんだ!まわろ!」
「傑さんとじゃなくていいのか?」
「あー…兄ちゃん、今年は忙しいみたいなんだ。でも俺、今年は祐介とまわりたいって思ってたからさ!」
そういうと駆は満面の笑みで時間やら何やらを決めて行ってしまった。
何気ない行事が、あいつと一緒ってだけでこんなにも待ち遠しくなる。
でも…俺は駆にとって、どれだけの存在なんだろうか。
文化祭準備であっという間に1日が終わり、いよいよ当日。
「祐介!」
待ち合わせ場所に駆は走ってやってきた。
「そんなに慌てなくても。」
「いいのいいの!早くまわろ?」
「そうだな。行くか!」
縁日、アトラクション、お化け屋敷、飲食系の出し物…
ほぼ全てを周りつくして、文化祭ももうそろそろ終わろうとしていた頃。
駆は俺のすぐ隣にいるのに、少しだけ、ほんの少しだけ遠く感じる。そう。ほんの1o。
今ここに傑さんがきたら、駆は傑さんのところに行ってしまうんじゃないか。そんなことを考えると不安になる。
「なあ…駆。お前にとって、傑さんってどんな人なんだ?」
「兄ちゃんは…俺の憧れでもあるし、大好きな自慢の兄ちゃんだよ。…ってどうしたのさ、急に。」
「じゃあ…俺と傑さんは?」
「へ?」
「俺と傑さんは、どっちの方が大切な存在?」
「何言ってんだよ、急に。らしくないな。」
自分でも何を言っているのだろう、と思う。でも、どうしても確かめたかったんだ。
「悪い。どうかしてるよな、俺。今のは気にしないでく―」
「祐介。」
「…え?」
「俺は、兄ちゃんのことが大好きだ。でも、祐介は…もっと好きっていうか…違う意味の好きっていうか…俺、祐介がいなきゃダメなんだと思う。」
「それって…」
俺は今まで、勘違いしていたのかもしれない。1oの差なんて、最初からなかったんだ。
「祐介。俺、祐介のことが好きだよ。大好き。俺にとって祐介は、特別なんだ。」
「駆…」
俺はそっと駆の唇に自分の唇を重ねた。
やっと、駆との距離が0になった。
それはきっと、これからも。
-end-