「ずっと…こ、孤爪くんのことが好き、でした…」



これはわたしの昔話





最後だから
このまま離れたら絶対後悔する。だったら当たって砕けたほうがマシだ。そう思った

中学の卒業式
体育館の横の渡り廊下で携帯をいじってた彼に思い切って声をかけた
今でもあの時の勇気はどこから湧いたのか全く分からない

彼とは中ニで同じクラスになった。でも親しい間柄ではなく彼からしたらきっとクラスメイトとしてさえ認識されていなかったと思う
唯一彼と接点があった事と言えば一度だけ隣の席になったくらいだ

単純だけどこれが彼に恋するきっかけだったんだと思う。たぶん
特別何か好きになる理由があったわけじゃない。だけど恋ってそんなもの
中三でまた別々になって、孤爪くんを好きな事は自覚していたけど自信がなくて、断られるのが怖くて言えなかった

でも友達から孤爪くんが行く高校を聞き、離れてしまうと知った時思い切って伝えようと決心した

渡り廊下で震えながら俯き、スカートを握りしめるわたしの手を優しく握って
とても小さな声で「俺でよければ…」と言ってくれた時、涙が溢れた


高校は別々だったけど、幸いにもわたしと孤爪くんの家はわりと近くで毎朝一緒に駅まで登校した

そしてわたし達の約束で20時に部屋のベランダからお互いの家に向かって懐中電灯で合図を送る
ただ懐中電灯を点けたり消したり。それだけ。
本当は電話やメールがしたかったけど孤爪くんはあまりそういうのは得意じゃなさそうだと思ってわたしからお願いした
あの面倒くさがりな孤爪くんがわたしの為にやってくれてると思うと嬉しくてその時間は1日の楽しみだった

でも高ニになって孤爪くんの部活が忙しくなってから少しずつ一緒に登校できない日が増えていった
唯一の楽しみだった夜の合図も無くなっていった

そんな時に孤爪くんが頑張っているところが観たくて、休日に試合を観に行った
ゲーム以外で彼があんなに真剣に何かに取り組んでいる姿は初めて見た
わたしの見たことのない孤爪くんに嬉しい反面、不安になった。

試合が終わってから孤爪くんを待っている時、孤爪くんの同じ高校の女の子と思われる子達が何やらこちらをチラチラ見て話しているのが目に入ってしまった
何か用事かと2人の話に耳を傾けてみた
それはわたしなんかが何故孤爪くんの彼女なのかという内容だった
たぶん2人でいるところを見てわたしが彼女だと知ったのだろう

孤爪くんにわたしが不釣り合いなんだという事実に落ち込み、気づいたら孤爪くんに挨拶もなしに家に帰っていた

その一週間後に久しぶりに一緒に帰れる事になった。


そしてあの日ついた嘘が今もわたしを後悔させるんだ




“孤爪くん、あのね…

わたし、他に好きな人ができたんだ。

だから……わたし達別れよう”


重荷になりたくなかったというのは綺麗事だ。きっと自分が傷つきたくなかっただけ
どんどん輝いていく彼の横に立つ自信がなくなっていくのに

彼が好きすぎて

その気持ちが溢れて自分で抱えられなくなって混乱してしまった







あれからもう6年経つ

わたしは社会人になって地元で働いている
何度か彼氏は出来たけど1年も続かなかった
。どこかで彼の面影を追っているのは分かっていた


珍しく仕事が早く終わり、部屋でくつろいでいた時ふと、あの夜の合図のことを思い出した
現在の時刻は19時57分
懐かしむ感覚で懐中電灯を探す



20時

あの日のように彼の家の方角へライトを照らし点けたり消したりしてみる




なんて滑稽だろう

孤爪くんはもうあの場所にいないかもしれないのに
そもそもこんなこと覚えているはずがない

自分から手放した恋なのにまだ縋り付いているなんて
嘲笑ものだ

もう忘れなければ


ライトを消して窓を閉めようとした瞬間

彼の家の方角から懐中電灯が点滅してるのが見えた
気のせいだろうか

すると携帯が鳴った
画面には「孤爪研磨」

震える手で応答ボタンを押す


「………はい」

「……あの、…俺…孤爪研磨だけど…覚えてる?」

「忘れるわけないよ…急にどうしたの?」

「さっき懐中電灯を点滅したの、見えた?」

「っ?!やっぱり孤爪くんだったんだ。もう忘れてると思ってた」

「わ、忘れないよ。ずっと…、言おうと思ってた」

「…え…なにを…?」

「名前は優しいから…あの時“他に好きな人ができた”って言ってたけど、本当は俺に…愛想をつかしたんだろう。って…でも傷つけないように嘘を…」

「違うよ!孤爪くんのことは今でもす、……えと、あの、…」

「…教えてほしい。本当のこと」

「…本当は怖かったの。孤爪くんが遠い人になっちゃうのが。わたし1人だけ置いていかれるのが。だから嘘をついた…ごめんなさい…」

「……ずっと…名前のことが、好きでした」

「…っ、わたしで…よければ…」




今度は素直になれる気がする。ねぇそうでしょ?












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