06



例え降水確率が10%で降らないだろうと思っても、その10%が当たる事は歩んだ人生が20に満たないスクアーロでも経験した事がある。というか、今現在も経験している最中だ。
小雨が降る中一人家に向かって歩くスクアーロ。学校に置かれたままになっている傘を拝借しようと思ったが、置いてある傘は、THE・女子という感じで女子感がプッシュされている物だった。そこまで女子って事をアピールしなくても良くね?と、傘のデザインを描いた人物のセンスを全否定するようなツッコミを心の中で入れて、家路を急いだ。
しばらく歩いていると、道端でダンボールに入れられた子猫が鳴いているのが目に留まったが、近寄らずにその前を歩いていった。しかし、何故か無性にその子猫が気になり、来た道を戻り子猫に近付く。子猫は逃げ出さずに、近寄って来たスクアーロに甘えるような仕草を見せた。


「…ゔお゙ぉい」


その可愛さに、声のボリュームに定評のあるスクアーロが珍しく小声になった瞬間だった。



*****



『名前何する?』

「はァ!?」

『え?』


家に帰り、玄関でバスタオルを広げて待っていたアレッダに「風邪を引いたら大変だし髪がハゲるから風呂に入れ」と言われ、子猫の事を言う間もなく強制的に風呂場へ。ついでに子猫も洗い、綺麗さっぱりした後にアレッダに子猫を拾ったと話した所、名前何する?の台詞が出てきた。


「べ、別に飼うつもりで拾って来たわけじゃねぇ!」

『いや、でもスクアーロに懐いてるし。それに飼いたいんだもん、にゃんこ』

「オッサンがンな言葉使っても可愛くねぇって事を分かってんのか?」

『お前反抗期か?母さんは悲しいぞ』

「何で包丁向けてんだぁ!」

『いっけね無意識。母さんお茶目だから』


何なんだこの母親は。無意識で息子に刃物を向けるなんて、もうお茶目とかそういう問題じゃない気がする。お願い母さん、今すぐ脳の病院行こう。このままじゃ朝刊のトップ飾って学校で騒がれちゃう。


『おー、よしよし。可愛いな、お前』


本気で病院に連れて行くかどうか考えていたら、自分の腕の中にいた子猫はいつの間にかアレッダの手に渡っていた。よしよし、などと言いながら頭や背中を撫でていれば、子猫が母親に甘えるような仕種を見せはじめた。


『男の子だな、こいつ』

「分かったのか?」

『見た』

「何をだ」

『玉』

「……」


いや、性別かどちらか見分けるのは当然なのだが、そう堂々と玉なんて言わなくても…諦めなさいスクアーロ。それが貴方の母というものなのですよ。いや、お前誰だよ。


『名前は何が言いだろうな…』

「…って、親父に言わなくていいのかぁ?」

『ザンザスなら大丈夫だろ。あいつは猫好きだ』

「そうだったのか?ンな話聞いた事ねぇぞ」

『だって実家でライオン飼ってたし』

「あれは猫じゃねぇだろうがァ!バカかテメェは!」

『母さんにバカっていうな。夕飯作らねぇぞ』


朝飯(昼飯、弁当、夕飯)作らない・洗濯物洗わない(畳まない)・掃除しない。といった家事ネタは、恐らくどこの母親にも共通しているだろう。また、井戸端会議で自分の家族の現状を伝え合ったり、隣近所の家庭内事情を話したりしているのも主婦ならではだ。何でそんな情報知ってるの?という情報まで提供してくる主婦は、最早主婦ではなくスパイか情報屋にでもなればいいと思う。


『可愛いなぁお前。よし決めた。こいつの名前はアルマジロだ』

「それは違う動物だろうがァ!」

『じゃあ、フランクフルト』

「却下」

『煮豆』

「ざけんな!もっとましな名前にしやがれ!」

『仕方ない…なら、ちくわでいいか』

「ゔお゙ぉい!テメェはまともに考える気がねぇのかァ!?」

『ましな名前って言うからつけたんだが。あ、でもちくわはベルだからダメか』

「は?」


ちくわが我が家の四男?何を言いだすんだこの母親は。前々から頭のネジが人より数本足りないとは思っていたが、ここまで来ると数本足りないレベルではなく、ただの設計ミスとしか言いようがない。ちょっと設計士!今すぐこの建物直しなさい!いや、もう修復不可能っス。人間誰にでも無理というのは存在するのですから。
何言ってんだこいつ馬鹿じゃねぇの?という顔でアレッダを見ていると、見られている張本人は覚えてないのも無理ないか…と呟き、例のちくわについて話しだした。


『ベルが腹にいるって分かって、お前達に教えたんだよ。弟が出来るって。そうしたらいきなりお前が、弟の名前はちくわがいいって言いだしたんだよ。まぁ、十五年近く経つから忘れるのも仕方ないだろうけどな』


過去のアホ丸出しな自分を盛大に呪うスクアーロであった。
ちなみにその後、子猫はルッスーリアの友人の家で飼われる事になり、ちくわと名付けられる事はなかった。



雨の日とネコ
(ししっ、ヤンキーが雨の日に子猫拾うとかベタすぎー)(うるせぇ)



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