食堂で夕食の途中、おーいタツミー!と手を振られ、達海は箸をくわえながら騒がしく入ってきた先輩に目を向けた。


「なに?松本」
「今日俺の部屋にお前もしゅーごー」
「なんで」
「皆でゲーム!新しいソフト買ったんだよ」
「やだよ、めんどくさい」


断られた松本は、一瞬だけ眉間にシワを寄せるが次にはパッと表情を明るくした。そしてターゲットを移す。

「後藤も参加するぜ?なっ!」
「えっ」

達海の正面に座り、煮物に箸をつけていた後藤は突然自分に話が振られ、動きが止まる。達海は後藤を覗きこむ。 行くの? そんな瞳を向けられてしどろもどろながらに返答した。

「あの、俺、ゲームやったことないですし」
「いーよいーよ。今日が初体験?俺が手取り足取り教えてやるよん」

へへん、と笑う松本に、後藤は頷くしかなかった。それに少しだけ機嫌を悪くした達海は口を尖らせた。別に後藤の勝手だけれどなんとなく気にくわなかった。


「後藤も来るってさー。お前ひとりぼっちになるぞー」
「別にいいし」
「寂しいんだろー?」
「うるさいなぁ」


達海は俯いて黙々と食事を開始した。後藤が、からかいすぎですよ、と松本にキツい視線を送る。あらまぁ、と苦笑した松本は達海の肩に腕をまわした。

「来いよ達海」
「………お菓子ある?」

しばらくの無言のあと、ボソッと呟かれた思ってもみなかった返答に松本は目を丸くした。なんとも可愛らしい。というより、ガキか。成人にもなってゲーム大会を開こうとする自分は棚にあげた。そして達海の気持ちがぐらついてることに気がつくと攻めるチャンスだと考え口元を緩めて何度も頷く。

「もっちろん!ビールもあるぜ?」
「……じゃあ行く」
「未成年の達海はビール飲んじゃいけませんって」

後藤はしっかり達海の保護者を務めていた。






「あれ、めずらしーな」

すでに集まっていた仲間の内から達海と後藤の姿を見て声が上がった。後藤は気まずそうな笑いを浮かべながら空いたスペースに腰を下ろす。あまり慣れない。遠慮がちな雰囲気を察したのか先輩たちは後藤に缶ビールを手渡していた。達海はというと、くるりと体を出入り口に向けた。

「やっぱ帰る」
「ダーメだ、いーじゃん今日くらい付き合えって」


明日の練習は休み。わいわいと遅くまで騒ぐ予定なのだろう。
達海は、早々にうんざりした。騒ぐのは嫌いじゃない。嫌いじゃないけど気分じゃない。
テンションが低い後輩に松本も苦笑するしかなかった。どうしたらいいかねぇ。別に改まって親睦を深めようという企画ではない。達海はもともと誰からも好かれる、そして惹かれる人間であることも松本だってわかっていた。ただ、自分が達海と同じ空間に居たかった。ちょっとしたエゴ。


「……今日だけだかんね」


今にでも帰ろうとする達海を自分の横におき、松本はコントローラーを握った。チラリと窺うと、達海は散らかるお菓子の山に手を伸ばし、テレビ画面をぼんやりと眺め始め、おとなしくしているので、胸を撫で下ろす。





「タツミ?」

しばらくの後、松本はふと肩に重みがかかることに気がついた。達海が頭を自分に預けている。
寝てる?
顔を覗くと気持ち良さそうに眠る達海を確認する。先ほどまで、反発的な態度をとられていたのに、なつかれたようでちょっと嬉しい。世話役の後藤の気持ちがわかったかも。
それにしてもよくこんな喧しい中で寝れるよなぁ。
松本は部屋中を一周見渡した。テレビから流れる音。仲間の笑い声。
寝ている隙に、ふわりと柔らかな達海の髪を撫でてみる。試合中ゴールを決めた達海の髪をわしゃわしゃと撫でることはあってもこうしてゆったりした時間の中で触れるのは新鮮だった。




「達海寝ちゃったのか?」
「そーみたい」
「結局達海のヤツ、一回もプレイしてねーよな」
「まぁ、嫌々言ってるのを連れてきたからなぁ。それにお菓子目的みたいだったし」
「お菓子ー?なんだそれっ」

笑われてるぞ、と松本が囁いても当然返事はない。


「部屋、隣ですし運びましょうか」
「いーよ、ここで寝かせてやれば。達海が心配なら、お前も泊まってけば?」

茶化すような口調に後藤も笑って、いえ帰ります、と断りを述べた。皆が解散し、急に静まった部屋。松本は達海の足に腕を差し入れ、持ち上げる。重みはあるもベッドまでの数メートル。起こさないように気を付けたが、やはりベッドに倒した時には意識が浮上したようで。焦点の定まらない瞳が松本を見上げた。



「…ん、…まつもと…?」
「起こしちまった?ゴメン。寝ていーよ」
「……松本は?……そこで寝んの?」
「あー、おう」


床に置いた枕に目を落としながら達海は、得意のアヒル口になる。


「いーじゃん、一緒に寝れば」
「狭いしいいよ。達海使えよ」
「いーよ、狭くたって。ベッドに寝よ?」


寝よ?って……。
なんだか、照れる。
松本はぼんやり昔付き合った女を思いだし、すぐに頭を振った。
男同士だっての。やましいことなんか、ない。
そう切り換えて松本はゆっくりベッドに乗り上げた。


「ニヒヒ、あったけー」
「そーだな、」


一緒の布団に潜ったのはいいが……。松本は体が熱くなるのを感じた。あったかいどころではない。熱い。鼓動が速まるのを感じる。
数分経つと隣からすーっと寝息が聴こえてきて、達海が眠ったことがわかった。しかし…。
松本はキツく目を閉じて、この緊張を誤魔化すように眠りについた。



恋が始まる音を聴く



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