「俺を恨む?」

なに馬鹿なことを。あんた馬鹿だろ。思ったことを直接口にも出来ないので睨んでおいた。どう相手は解釈をしたかはわからなかったが小さく苦笑しただけだった。靴紐を結び終えて立ち上がり、一礼して扉を開ける。早くこの場を去りたかったのに。数センチ開いたドアを通り抜けることなど許されなかった。堺、待てよ、と制止がかかる。

「監督命令でスか?」
「つれないね。いーじゃんたまには。ゆっくり話そうぜ」


渋々頷くと、んじゃコッチと腕が取られ誘導をうける。お前何飲む?と自販機前で立ち止まった達海さんにお茶でと答えたら笑われた。


「お前若いのにジーサンみたい」
「アンタみたいに炭酸ばっかり飲んでられるか」
「いや、じゃあスポーツドリンクとかコーヒーとかあんだろ」
「余分な塩分摂取になるし、コーヒーはあんまり好きじゃないんで却下」
「あ、そう」


歳上の監督。いや、監督は大抵歳上なのだが、改めて目の前の人を見るとまるでそんなことを感じさせないから困る。口が悪くなってしまっても気にしないのか、選手相手に気さくに話しかける達海監督はチーム内でもすでに高評価。チームの成績も上向きで昨シーズンより雰囲気もずっと良い。何も文句をつけることはないはずだろう。


「俺がキライ?」
「……なんで?」
「やー、エースストライカーの9番をスタメンから外す監督だから?」
「本気でそんなこと思ってる監督ならだいっきらいだな」


へらりと笑う監督に食えない人だとは思う。結果を出せないのだから、試合に出してもらえない。そんなこと、プロのこの世界じゃ当たり前なのだ。わかっている。すべて自分が悪いのだと。
ただ、どうしても熱くなって八つ当たりみたいに感情をぶつけてしまうことが、ある。監督に対して無礼な態度であるから冷えた頭で考えた時は申し訳ないと思っていたりする。それでも、素直になれない自分が存在していて、


「まー、仲良くやってよ」
「じゃあ逆に質問。俺みたいなのは、おきたくないだろ?」
「なんでそんなこと訊くの?」
「訊いてほしいのかと思ったから」


視線を投げつければ、達海さんはいつもの口を尖らせるような仕草をしてみせた。そーいうとこ、歳に不釣り合いで可笑しい。こっそりと頬が緩む。


「あのなぁさかいー。俺、これでもお前のことキタイしてんだぜ?」
「嘘くさい」
「ゴールへの執着。冷静な判断。ボールのキープ力。他のFW連中以上の経験値。どう?」
「……どう、って……」
「まだまだお前はやれるよ、堺」

まったく。
プレー以外でも、人を惹き付けるのがお得意な監督だ。


「達海さん、俺、アンタが最後の監督で良かったと思ってるよ」
「おいおい、まだやれるっつってんのに」
「早々解任する気かよ、監督さん」
「おー、心中してくれんのね」


ニヒヒ、と笑う監督につられて緩む口元を隠すようにペットボトルに口つけた。



アンタに従う覚悟はもう出来ている


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