今日は椿の姿が見当たらない。時々、アイツが此処で一人楽しそうにボールを蹴っている姿を眺めるのは、嫌いじゃない。寧ろ好き。でも声をかけると椿は逆に力んでしまうので邪魔はしない。今日もいるかと思って覗いてみたけれど外れだった。


もう駆けることの出来ないピッチの上に一人立つ。静かな夜。昼の印象とはまるで別世界。


「タッツミー?」

振り返ると予想外の人物が立っていた。我がチームの10番。

「どうした?練習か?」
「まさか」


携帯を忘れてしまってね。クラブハウスに取りに戻って来たらしい。偶々、通りかかった時に俺の姿を見つけて声をかけたんだと。


「君は?何してるんだい?」
「さんぽー」

ポケットに手を突っ込んだ。少々身体が冷えてきたらしい。もう冬だなーなんて考えていたらジーノの怪訝するような目に気がついた。


「なんだよ」
「………ひどい顔してると思って」
「失礼な奴だなー」
「ちがうよ」

少し、ジーノにしては荒っぽい口調で否定され、困ってしまう。なに、機嫌悪いの?直接本人には尋ねなかったけれど。
ゆっくりと近づいてくるジーノをぼんやりと見ていたら思っていた以上に近づかれて、顔を覗かれた。一歩下がればジーノも一歩近づく。距離は縮まらないけれど離れもしない。


「そんな顔されると、心配になるじゃないか」


ポツリと溢れた言葉にドキリと心臓が音を立てた。なんだ、顔に出てた、かな?

「大丈夫だ」
「うん。詳しくは聞かない」


コイツのこういうところ好き。深入りはしない。それでいて自分もさせない。自分を中心に世界がまわっている様で、そうでもない。周りにいる人間をちゃんとみてる。自由奔放なコイツが団体で行うフットボールを上手くプレイしているのもそういった人間だからこそなんだと思う。


「泣きたいならボクの胸、貸してあげるよ?王子さまがそんなことは滅多にしないけどタッツミーは特別にね」
「はいはい。別にいいから」


お断りするば、えーだの、折角この僕が言うんだから有り難がるべきだだの、文句を垂れ流す。


「じゃあさ、後ろ向いて」


俺の指示に従ってジーノは、なんだい?と首を傾げながらも背を向けてくれる。そんな、彼に後ろから抱き締めれば驚いたように、俺の名前を呼んだ。


「タッツミー?」

ニヒ、と笑いながらジーノの背中に額をつける。

「これなら情けねぇ顔見られずに済むからいいな」
「えー、それじゃあボクがつまらないじゃないか」


少しだけだからね。とジーノはため息を吐いた。




すっごく あたたかい



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