彼はボクの想像を上回る。
まさかだよね。
あの、タッツミーがだよ?



「いらねーの?」
「ううんっ!いる!欲しいよ!」

予想外の展開にしばし頭がついていけなかったボクに対して彼は眉を寄せ、差し出したモノを引っ込めようとしたので慌てて受け取った。ボクの手に渡ったそれをもう一度見る。綺麗。うん、いい香り。


「もしかして……あんまり好きじゃねぇ?普通にチョコレートの方がよかったとか」
「そんなことない!すごく嬉しい。予想外過ぎて、驚いてる」


だって、真っ赤なバラの花束だよ!
あのタッツミーが!
彼からバレンタインの贈り物なんて期待していなかったんだ、正直。彼は淡白な人だからね。こういったイベントも疎いと思った。なのに!

せいぜい……彼がよく通うコンビニで何か買って用意してくれたらいいなぁ、なんて思ってた。安っぽいチョコレートなんてボクには似合わないけれど、彼が選んで買ってきてくれたのなら笑顔で食べてあげるつもりでいた。安物の口にあわないチョコレートを食べた後、口直しにタッツミーの唇を奪えたら、なんてね。そしたらどんなに不味いチョコレートであろうと至極素敵なチョコレートの味になっただろう。そんな期待は良い意味で裏切られた。

ボクの言葉に彼はそっと胸を撫で下ろした。それから何事もなかったかのように、また、視線をテレビ画面に戻してしまった。ボクは彼の手からリモコンを奪う。
電源を切ると雑音が消え、室内が一瞬にして静寂に包まれた。


「なんだよ」
「お礼くらいしっかり言わせてよ」


ボクはポケットからチョコレートの箱を取り出した。

「おっ、吉田くんからのチョコ、期待してたんだよねー。」

ニヒー、と笑った彼は揚々と包装を開けていた。おー、高そうだなコレ、と。

当たり前さ。ボクはタッツミーのためにフランスからわざわざ有名店のチョコレートを取り寄せた。美味しいチョコレートを彼にプレゼントして喜んでもらえるために。

「それにしても、タッツミー。キミがボクにこんな素敵なモノを用意してくれていたなんて思わなかったな。ありがとう」

一粒口にして、うっま、なんて無邪気に笑う彼。かわいい。そんな彼にお礼を言うと彼は視線を寄越して、アヒル口になった。


「日本のバレンタインって、みーんなチョコだろ?お前チョコあんまり好きじゃねーじゃん?じゃあ何やれっかなって考えた時にさ、イギリスにいた頃のこと思い出して」
「へぇ。そういえば貴方、イギリスに住んでいたのだったね」

うん、と返事した彼は手の内のチョコレートをベッドへ置き、珍しく自らボクの肩口へと額を預けてきた。まるで甘えるみたいに。どうしたの?と訊ねる前に彼は話を続けた。


「向こうで4年くらい前だったかな。下宿していた玄関先に、バレンタインデーにさ花束とメッセージカードが届いてんの。周りに訊くとさ、向こうではメッセージカードを贈るんだってよ」
「なんて書いてあったんだい?」
「Secret Admirerer。ひそかにあなたを思っている者より」
「なんか怖くない?それ」
「こっちじゃあな。でも、イギリスでは名前を明かさずカードを贈るのがフツーらしい」
「ふーん、それから?」
「日本帰ってくるまで毎年続いた。でも、誰かは結局わかんなかったな」


懐かしい思い出を頭に描いているのかどこか遠くを見つめていた彼の腕がゆっくりとボクの背中にまわる。抱き締める仕草が妙に必至だったから、愛しさが込み上げて彼の茶色がかった髪にそっと触れた。


「もしかして、未練があるの?」
「いんや。たださー、相手に想いを伝えるのって大変だよな、って思った」
「その例は異色だと思うけれど、うん。そうだね」


彼の抱き締める力が強まる。


「だから、………I love you,GINO」

照れて赤くなったであろう顔を隠すタッツミー。
ああ、もうっ!歳上の恋人はボクを幸せにしてくれる。
これだから貴方に恋をしたんだよ!


「愛してるよ、タッツミー」
「恥ずかしいなー、お前」
「だって、貴方にはどうやら言葉で言わないと伝わらないみたいだからね」


イングランドで、花束とメッセージカードを贈っていた人は少なからずタッツミーに好意を持っていただろう。悲しい恋の物語だね。

「ねぇ、もう一回、顔を見せて言ってよ」
「やだよ」
「お願い。貴方の言葉を聞きたいの」

そう耳元で囁くと、バッと彼は顔を上げて、
ボクの唇を奪っていった。






言葉じゃなくても伝わるだろ?
笑う彼に思わず顔が熱くなった





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