トントンと軽く扉をノックしてみた。中からは、どーぞ、と間抜けな声が返ってきて思わず口元が緩む。開くと、チラリと視線を寄越したタッツミーはわざとらしく二度見をして、少しだけ眉間にシワを寄せた。

「なーんか用事か?」

ボクがコクンと小さく頷くと、タッツミーは首を傾げて観ていたDVDを一時停止してくれた。


「お前が来るなんて珍しいね、なに?」
「………どうしよう」
「なにが?」
「ボク、どうやら恋をしてるみたいなんだ。最近、胸が苦しくて辛いんだよ。夜も眠れない。こんなこと今までなくてね。フットボールに支障をきたすようなことはあってはいけないと思って、すごく困ってて…」


タッツミーは手の平で傍に座ったボクの口を塞ぐ。視線を向けると、タッツミーは心底めんどくさそうに顔をしかめた。


「俺はお前にアドバイス出来るほど恋愛に関しては経験豊富じゃねーから、他に相談しろ」
「……そうなのかい?」
「そーなの」


しっしっ、と犬をあしらうように追い払われてしまう。タッツミーは早々リモコンを手に取ると再び試合の研究に没頭していった。
画面に映る選手に、嫉妬。可笑しいよね。


「タッツミー」
「なに?」
「じゃあ参考までに今まで君がしてきた恋を話してよ」


画面を見据えたまま、タッツミーは動かなかった。ぐっと距離を縮めて、小さなテーブルの上に腕を組み、顎を載せる。


「そんなに聞きてーの?」
「うん、聞かせて」
「………つまんないよ?」


本当に話してくれるなんて思っていなかったから、少しだけ驚いたけど黙ってタッツミーの話に耳を傾ける。胸の辺りがそわそわと落ち着かないのは、気のせいにして。


「恋人っていうか……まぁ、愛していたし、愛されてた、と思うよ。それはもう、皆が嫉妬するくらい。でも、ね……俺はなんにもしてやれなかった。…………だから、突然見放されたんだよなぁ」


静かに話始めたタッツミー。視線の先は未だテレビ画面のまま。


「………振られて別れたってこと?」
「いんや、今もお付き合いしてるよ」
「えっ?」


振り返ったタッツミーはニヒヒッと悪い笑みを浮かべる。



「俺はフットボールとお付き合いしてんの、わかった?吉田くん」

嗚呼、この人は全く……。
ボクは肩を落とした。
それから、タッツミーを抱き締める。

「ごめん。好きです、タッツミー。だから、フットボールと別れて」
「……なに言ってるのかなー?吉田くん」
「ジーノか王子だよ」

タッツミーはボクの腕の中でもがくけれど、放してあげない。

「てか、お前、何、俺に好きとか言ってんだよ、違うだろ」
「違わないよ!タッツミーのことが好きで困ってるんだよ最初から!」
「………おまえね……」
「なんか色々予想外。恋人はフットボール、なんて可笑しなこと言うし」
「だってそうだもん」
「敵うわけないじゃん、そうしたら」

キョトンとしたタッツミーは、次にボクの髪をくしゃりと撫でた。

「惚れさせてみろよ、俺を」



ボクのモットーはシンプルに、スマートに。
なのに、なのに、……




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