生徒×家庭教師

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大学受験を控えた年。母親はボクに家庭教師を用意した。勿論成績優秀だったボクだけれどね。今まで塾にも行かなかったので気休め程度に、とのことだ。週に2回。基本どの教科も文句のない成績を修めていたけれども幼いころイタリアで生活していたためか、どうも国語に苦手意識があった。それと英語。海外に住んでいたのなら英語は出来るだろう、とよく問われるけれどそんなことは実際ない。フランスほどではないけれどイタリアもあまり英語を好まない人種であることを忘れないで欲しい。総括すると、文系科目が苦手というわけで。そんなボクを教える家庭教師が今、目の前で採点をしてくれている達海猛、愛称はタッツミー。

「どう?タッツミー」
「んー、英作文は相変わらずつまんねぇスペルミスし過ぎ。単語帳復習な。まぁ結構意見は書けてるからそこは褒めてやんよ」


採点を終えたテキストを受け取る。タッツミーは、よし、と言って立とうとしたので慌てて手を引っ張った。なに?と不思議そうな顔をされる。

「終わったし帰りたいんだけど」
「もうこの後用事はないんでしょ?まだ居ればいいじゃないか」
「居ろって言ったって。なにすんの?まだ見て欲しいことでもあんの?」


タッツミーは渋々といった感じで元の位置に腰を下ろしてくれた。

「………見て欲しいことは特にないけれど…。居てくれればいいよ」
「なんだよそれ」


ボクの我が儘に答えてくれたタッツミーは、組んだ両腕に顎を乗せじっとボクを見つめていた。タッツミーに見られてる、そう意識すると目の前の問題文なんか頭に入るわけはない。ドキドキと音を立てる心臓は相手に聴こえるんじゃないかと思った。

「や、やっぱり帰って。集中出来ない」
「……だろうな」

タッツミーはボクの頭をくしゃりと撫でて立ち上がった。

「全然、問題に集中してねーもん。俺、邪魔だろ」
「邪魔、じゃないけど……。あ、タッツミー」
「んー?」
「今度の模試でA判定出たら、ご褒美くれる?」
「模試だろ?なんで、褒美なんかやんなきゃなんねーんだよ。それにお前高そうなモンねだりそうだからヤダ」
「いいじゃないか。生徒のやる気を出させるのも先生の務めでしょ?それにお金はかからないよ」
「………K大。記述模試でA判定出たらいいぜ?」


K大。ボクの今の実力のワンランク上の偏差値の大学だった。タッツミーを見るとニヒ、と悪戯っ子のような笑みを浮かべている。

「わかったよ。その代わり約束は守ってね」
「おーう」


ヒラヒラと手を振り、玄関を出ていくタッツミーを見送った後、ボクはすぐさま机に向かった。





それから、一ヶ月後。
ボクはそわそわと落ち着かない心持ちでタッツミーがやって来るのを待っていた。

「よ、ジーノ。ちょっと遅くなっちまったな。……どうした?なーんかやけに嬉しそうな顔して」
「ふふ、タッツミー!これ」


取り出した模試の結果をタッツミーの前に広げる。約束通り、Aの列なるそこにタッツミーは目を丸くしていた。

「よっくやった!ジーノ!あれ、でもこの結果なら俺、要らなくないか」
「タッツミーのお陰だよ」


タッツミーは結果を見ながら、いつもの椅子に腰を下ろす。

「この調子なら志望校もう一段階上目指せるぜ?」

ボクはタッツミーの見ていた結果表をスッと取り上げる。驚いたタッツミーに、にこりと笑顔を向ける。

「ねぇ、タッツミー?約束覚えてる?」
「約束?………んー?ああ、あれな。でもジーノぉ、今俺給料日前で金ねーよ?」
「お金はいらないって言ったよ?」
「じゃあなに?」


首を傾げる彼の顎をクイッと掴むとそのまま薄く開いた唇へキスをする。驚くタッツミー。ボクを退けようと胸を押し返す腕を取って、強引に引き寄せてベッドの上に押さえ込む。

「………まじ?」

下から覗いてくるタッツミーの視線に煽られて沸き上がる感情は抑えきれない。もう一度、今度は深く口づけをしてから放れると、上気した彼の頬や潤みを帯びた瞳から目が離せない。
この人を抱きたい、どんな風に乱れて自分を求めてくれるのだろう。そんなことばかり考えるようになった最近。自分の妄想が夢にまで出てきてしまった日の授業なんて面目無さを感じた。その日タッツミーに調子悪いの?大丈夫か?と心配されて益々気持ちが落ち込んだ。


「ジーノ…っ、…親、は?」
「心配しないで、今日は2人とも遅いんだ」
「……ま、てっ……ふ、ぁ…や……」
「かわいい」


ワイシャツのボタンを外し前を広げ、胸にある突起に唇を寄せれば、可愛らしい声が上がる。気分を良くしてそれにちゅっ、と吸い付けばタッツミーはビクンと体を揺らした。

「コワイ?」
「こわい、っていうか、俺で勃つの、て感じ?」
「大丈夫だよ?タッツミー、聞いて?」

ソッとタッツミーの頬を撫でる。きゅっと目を瞑ってまるで初めての女の子みたい。クスリと笑うと口を尖らせるタッツミーはとても魅力的だ。


「タッツミー、ボクね、貴方が好きなんだ。だから触れたい。愛したい」
「……ぁ、…ちょっ、……じ、の、急に、んっ…だめ、だっ、……あ」
「でも、無理矢理になっちゃうかな?」

履いている衣服を脱がせつつ、訊ねると、やはり嫌々と首を振るタッツミーに罪悪感が芽生える。けれども、

「ジーノ、本気で、俺のこと、好き?」
「もちろん」

そう答えれば、恥ずかしそうにはにかむ笑顔を作るから。自惚れてもいいかい?

「ああ、んんぅ、ッ…、は、…ああ゛…っ…ん、じ、のッあ」

ローションを後孔に垂らし、充分に解してゆく。うねるようにボクの指に絡み付くそこへ早く自分のモノを挿れたかった。

「力、抜いて?…そう、大丈夫かい?」
「ふ、ぁ…うん、ぁ…ジーノ…っ?あ゛、ひぁンッ」

熱くて、自分の性器を締め付けてくるそこは凄く気持ちがイイ。ドキドキもした。女の子とのセックス経験は今までに多々あったけど過去最高に高揚を感じたのはきっと相手が大好きなタッツミーだからだと思う。男同士だからって関係ない。好きになってしまったのが彼だったんだから。





数時間後、ベッドの上にはムスッとした顔でタッツミーは横になっていた。そんな彼の髪を弄りながら、怒ってる?と尋ねてみる。彼は首を振った。

「……怒ってはない。…やっちまった、とは思ってる。お前まだ未成年じゃん。それに、俺の生徒って訳だし」
「意外。君がそんなこと思うんだ。背徳心?」
「そんな綺麗な言葉はつけらんねーけど、やっぱり、なぁ?生徒に手ぇ出す家庭教師ってどうよ」
「ボクが誘ったんだから気にすることないのに、」

ちゅ、と彼の頬に唇を寄せると、ニヒヒ、と笑ったタッツミーは、ボクの頭を押さえてそのまま深く口づけてくれた。驚いたボクに機嫌を良くしたタッツミー。

「きもちよかった」

可愛い。ギュッと抱き締めると、腕を背中に回してくれた。

「タッツミーボクのものになってよ、お願い」
「もうお前の家庭教師ですけど」
「意地悪だなぁ。恋人になって?」
「大学決まって卒業したら、な。そんときまた考えてやる」
「えー、やだ」
「わがまま言わないの吉田くん。待っててやるから。頑張りなさい」


もう一度彼から、唇にキスが落とされて、巧く丸め込まれてしまった。頷くしかなかった。







「ねータッツミー、疲れちゃった。休憩しよ?」
「……20分だけな。」
「うん。ほらじゃあ急いで」
「しょうがねぇ、な、ちょっ、まって、じ、の、盛りすぎだ、ばか」

会う度、ってわけじゃないけれどどうしてもタッツミー不足になった時は、充電させてもらう。なんだかんだで甘い先生は文句を言いながらも、優しくキスを返してくれるから、ボクは先生が大好きなんだ。


「これで受験失敗したら怒るからな」
「心配しなくても大丈夫だよ。ボク、タッツミーの恋人になりたいもの」





目標に向かって頑張るなんて柄じゃないけれど、
(貴方のためなら)




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