目の前に転がってきたサッカーボール。蹴りたい。胸の辺りが疼く。蹴りたい。蹴りたい。蹴りたい。欲は膨れ上がるばかりだ。この感情はとっくの昔に棄てたはずだろう?もう、無理なんだって。壊れた足は使い物になりやしない。

でも、少しくらい。

靴を脱ぎ捨てた。素足で触れるボールの感触。左右にボールを転がした。振り子のように、一定に。ボールにちょこんと足が触れるだけ。右、左、右…。ゆっくりとボールが転がる。

ふと顔を上げれば松ちゃんがヘンナカオをしていた。監督…、と小さく声を漏らす。ニヒ、大丈夫。心配すんなよ。


「監督ーっ!ボールとってくださーいっ」

ほら、遠くでお前を呼んでるぜ。行ってこい。

ごろごろごろ、とゆっくりと回転するボールは当然呼んだ選手の元になど届かず。動かない。あーあ。やはり手にとって投げればよかった。通りすがりのコーチがそのボール蹴り上げて選手に返してくれた。そのコーチが振り返ってやはりヘンナカオで俺を見る。

「もー、皆して」


俺は小さくため息をついて、靴を履き直した。




大丈夫。
笑えてる。だから心配しないでよ




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