恋人同士がそれなりに空気を読んで、何も語らずしてお互いの唇が重なるという場面は幾度とあった。なのに今回、目の前の恋人が嫌そうに顔をしかめていれば、こちらだって善い気分ではないわけで。早々に距離をとってため息をつくことになった。只今のキスに何がご不満だったのか。
「なに、その顔」
思わず不平をもらせば、タッツミーの手がスッと伸びてくる。その手はゆっくりとボクの唇へと触れ、形を辿った。
「ベタベタしてる」
なるほどね。我が恋人はどうやらコレがお気に召さなかったようだ。ポケットの中に手を突っ込んで内にあるリップクリームを転がす。
「最近乾燥してきたからね。タッツミーもリップクリームくらいつけたほうが良いよ?ケアは大事でしょ」
ボクの言葉に益々タッツミーは顔をしかめて、男のくせに、とぼそりと呟いていた。
理由が理由なだけに、特に気にすることもないから先ほどの雰囲気をもう一度作り出すべく、2人の距離を縮めていけば、タッツミーの手のひらがボクの口元を覆う。え?なにこの拒絶。
「それつけたままのちゅう、ヤダからしてやんない」
そんな理由で?
冗談じゃない