7番。そう、目の前に背中を向けて立つ男は間違いなく7番をつけている。我がチームユニフォーム。バッキー?いや、違う。アルファベットでかかれている名前は……


「TATSUMI……タッツミー?」

ゆっくりと振り返った男は間違いなく名前の本人そのもの。だけど、違う。監督の彼ではなくて、彼はもしかして。

「ねぇ、タッツミーでしょう?いくつ?」
「25。なに、あんた」


思わず笑ってしまう。タッツミーだ。若い。すごい。


「ボクはルイジ吉田。愛称はジーノ。でも皆ボクを王子って呼ぶよ」

どきどきした。タッツミーだ。目の前には10年前のタッツミーがいる。
だけれど、ボクの興奮とは裏腹にタッツミーは、ふーんとだけ返事を返すとまた後ろを向いてしまった。


「………タッツミー?」

おかしい。違和感を感じた。だから、もう一度名前を呼ぶ。タッツミー、ねぇタッツミーってば。無理矢理向かせた彼の表情を見てやはり、ドキリと心臓が高鳴った。


「どうしたの?なんで、君は泣いてるの?」


自然と身体を抱き締めていた。タッツミーはしきりに、ひっ、と声を漏らしながら止まない涙を止めようと必死になっていた。

「ボール…」

タッツミーが指し示す方へ視線を傾けるとかなりの数のサッカーボールが転がっていた。それはただ、静かに。


「もう、蹴れなく、なっちまった…っ、」


嗚呼。だから、泣いてるの?
タッツミー、泣かないで。
背中を撫でると、次第にタッツミーは落ち着いてきたらしい。ぐすっ、と鼻を鳴らして、もう大丈夫と肩を押してきた。


「わりぃ、」
「タッツミー」

ん?と首を傾げる彼に唇を重ねた。ちゅ、と触れるだけの可愛らしいキスだったけれど徐々に赤くなる彼の頬。なにすんだよ!と明らかに照れた表情はとても魅力的だ。


「監督、やりなよ。きっと貴方は良い監督になれる」
「やだよ、監督なんて」


唇を尖らせて、不満な表情を作るタッツミー。
監督、やってよ。お願い。


「そうしないと、ボクたち出逢えないから」

だから、やって。監督になって。

「なんだよ、吉田、」


もう一度、強く抱き締めた。
タッツミーお願い。









「……ーの、…おい、…ジーノ?」

ハッと目を覚ませば目の前にタッツミーの顔があった。眉間にシワを寄せている。


「ジーノ、おはよう。大丈夫か?」
「大丈夫って?」
「……泣いてた、ようにみえた」


嫌な夢でもみたのか?
彼が心配したように訊ねてくるから、安心させるように顔に笑顔を貼り付けた。それから、タッツミーの腰を引き寄せる。


「タッツミーに出逢えてよかった」
「なに、急に」


額をタッツミーの肩に押し付ければ、タッツミーは頭を優しく撫でてくれた。



叶えてくれてありがとう




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