2つの「ごめんなさい」







うちは一族最後の家の門前で向かい合う私とイタチ。そこにポツリ、と頬に一滴降ってきた。段々とポツリ、ポツリと次第に強まる雨足。





─────雨降るなんて言ってなかったのに。最悪だ。お天気お姉さんの馬鹿野郎。…うーん。でも空は晴れてるんだよね。こういう天気、何て言うんだっけ。





イ「…死ぬまでとは、どういう意味だ?」





状況が理解出来ないのだろう、私がさっき言った事をオウム返ししてくるイタチ。そのお世辞にも濁りが無いとは言えない瞳は困惑で揺らめきだっている。





『そのままの意味だよ。何か私は末期患者で3ヶ月しかもたないんだって。』





だから、それまでの間私を退屈させないで欲しいの。ただ淡々と、平然に笑いながら話せばイタチは只でさえ深い眉間の皺を更に刻みつける。






──────彼に刻まれるソレが苛立ちや怒りから来るものではないと知っている。きっとそれが物語るのは彼の悲しみ。私はそれを知りながらも、この作り笑いを止める気にはならなかった。






髪が肌に張り付く不快感に嫌気がさす。てゆうか、私雨なんて浴びちゃって風邪引いたりしないよね?風邪が原因で寿命更に縮まないよね?






あれれ、ヤバくない私。なんて考えてたらイタチが家に入ってから再び出てくる。手に何か持ちながら向かってくると私達を隔てていた扉を開けると首もとに彼の手が伸びてくる。






病人が風邪引いてどうするんだ。耳元でボソッと呟かれて傘を握らせられた。首には白いタオル。その生地からは長年求め続けていた匂いがした。





イ「変な事言ってないで早く帰れ。俺といるところを他人に見られたら面倒だぞ。」





また背を私に向けて歩み出すイタチ。…どうせなら、もっと、もっともっと強く突き放してよ。何で拒絶する理由が優しいのよ。ねぇ?







『ふざけないでよ、』






傘の側面で視界は狭まり私からは彼の表情が掴みとれない。それでも振り返ったのはわかった。





『アンタに拒否権があると思ってるの?アンタがあの時にちゃんと私を振らないから、だから私はアンタを忘れられなかった。今日までずっと。



私はこの長い時間をアンタに捧げたんだから、アンタだって私に時間を削ってくれても良いじゃない。たった3ヶ月なんだよ?



償いとしては安いモンじゃない。』







優しい優しいイタチがこんな事を言われて断る筈がない。否、断れない。彼を理解しているのにソレを利用する醜い私。





嫌な女ね、私って。ごめんねごめんね。それでも、貴方が必要なの。





だから、だからね。心の中で「ごめんなさい。」








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