世界は嘲笑う
─────ねぇ、神様。私は何時まで彼を忘れられないのでしょうか?いっそのこと恋情を抱く心臓を握りつぶしてよ。
綱「もって、3ヶ月だろう。」
余りにも淡々と告げられた余命宣告。ドラマとか映画だったら主人公も友人達も泣き叫ぶシーンなのに、現実に、自分自身に起こると意外に反応出来ないみたい。ていうか実感がないんだな。────────────────────────────────────なんて、何で私は冷静なのだろうか。シズネは綱手様が私を此処に呼んだ理由がわかっていたみたいで、下唇をギュッと噛んで泣くのを堪えてるし。あはは、私なんかの為に悲しんでくれるなんて、優しいなシズネは。ありがとうって言いたいな。口にはしないけど。
でもね、やりたい事を今見つけちゃった。忍なんてやってたら、何時死ぬかなんて分からないと思ってたからさ。残り時間知れてちょっと得したかも、なんてね。でも"死ぬんだ"って思ったら最期に1つだけ望みが浮かんだんだ。
だから叶えに行こうと思います。
『そうですか、じゃあ残りの期間は自由に生きますね。』
目的が決まれば後は向かって走るだけ。もう終わりまでのカウントダウンは始まったんだから。
机に肘をついて目を合わせようとしない綱手様とその横で肩を震わすシズネに背を向けて、大きくて重いドアを開ける。一般人には凄く重いのにいつも通りに楽々と開けてしまった。本当に私は末期患者なのだろうか。嗚呼、やっぱり実感がない。そして1歩、踏みだそうとしたら止められてしまった。
綱「まっ、待て椿!私なら治せるかも知れないんだぞっ。」
嗚呼、本当にこの里…いや今のこの里は優しいな。
でもね。
取っ手から手を離して2人を振り返ればやっぱり辛そうな表情で、
でもね。そんなに悲しむ必要は無いんですよね。
『別に生きよーが死のーが今更どうでもいいんですよ。』
まあ、出来たら戦場の方が忍としては立派ですけど。と口角を上げて言えば、2人の表情が面白いほどに強張った。目一杯まで広げられた瞳たち。
『じゃ、失礼しまーす。』
さあ、この部屋にも後何回足を入れられるのだろうか
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