本来ボルサリーノは他人に興味が無かった。
だけどそれを表に出そうとはせずに当り障りのない返事と笑顔を返しながら生きてきたボルサリーノは「人柄の良い青年」と思われる様になった。
それに伴い同性には「良い奴」異性には「優しい人」と言われ思われ心の中で心底吐き気を催すものだと思いながらボルサリーノは年月を過ごしてきた。
そんな彼は海軍に入った後も変わらずの生活を送り自分と同じ悪魔の実の所持者である同期の男「サカズキ」と並べられ「怪物新兵」と噂された。
サカズキは自身の能力の様に熱い男で同期にも上司にも恐れられているがボルサリーノは持ち前の飄々とした態度で接しているので批難の目は向けられなかった。
しかし女性関係は酷いもので一部からは妬み恨みの声が聞こえたりするがそれ以外の者からはおふざけで冷やかしを受けたりするだけなので内心面倒臭い気持ちを隠しながらボルサリーノは笑顔で対応した
その日も「恋人」という商品名の性欲処理便所に腕を絡められながらボルサリーノは自分の寮に向かっている途中、数人の会話が耳に入った。
どうやら本部の事務職員達が立ち話をしているようだった。
何時もなら気にもせず通り過ぎようとするのだが内容が内容だけにちょっと立ち聞きをしてしまった。

「あのボルサリーノって子、優しい子よねぇ」
「分かるわぁ。あたし昨日荷物を運んでたら通り掛かった彼が運んでくれたのよ!」
「あら本当? 彼って何時も笑顔で好青年よね〜」

どうやら事務職員の年配の女性達が自分の良さを話しては盛り上がっていたようだ。
優しいなんて只の建前で荷物を運んだのは目が合ってしまったから後でとやかく言われるのが面倒臭いから運んだだけだとボルサリーノは心の中で思った。
本人の中身なんて知りもしない女性達に内心鼻で笑いながら先を急ごうとする女性に腕を引かれ足を動かそうとしたが一人がある青年に声を掛けたのに再度足を止めた。

「ダックスちゃんもそう思うでしょ?」
「ちゃん付けは止めて下さいってば。というか自分、あの人苦手なんで」

青年――ダックスが言った「苦手」という単語にボルサリーノの目が少し開いた。
初めて自身に向かって言われた好意以外の言葉の続きが気になりボルサリーノは喰い気味になりながら聞き耳を立てた。
ボルサリーノの可笑しな行動に綺麗な顔を歪めた女性は再度腕を引いたがそれを振り払い覇気を飛ばした。
一瞬にして意識を飛ばし倒れた女性を冷たい廊下に横たわせたボルサリーノはこれでゆっくりと会話が聞けると壁に寄り掛かった。

「なんか笑顔を作ってるんですよね。こう、テープで固定してる感じに。本当は笑ってないし内心では真逆の事を思ってるだろうなって感じるんですよ」
「あらあら。そんな子なのボルサリーノくんは?」
「いや、実際関わった事ないんで知らないんですけど…前に廊下で彼が同期と話してた時に見た笑い方が変だったんですよ。こうやって皆さんの様に笑うんじゃなくて社交辞令で笑ってる、というか…うーん…まぁそんな感じです」
「そうかしら…私には分からないわ……」
「でも悪い人とは思ってないんで。――って、すいません。気を悪くする事ばっかり話して……」
「良いのよ〜。感じ方は人それぞれ。それにダックスちゃんは見る目があるからその通りだったりしてねぇ」
「だからちゃん付けは……はぁ、良いですよもう」

女性達の笑い声の中に紛れながらダックスの溜め息が混じった。
会話を全て聞いたボルサリーノは何故だか心臓が早く脈打つ感覚を感じた。
今まで感じた事のないそれに戸惑ったがすぐに理解した。

ダックスは自分の周りに居ない新しいタイプであり楽しめそうな人材だと言う事に。

思い立ったが即行動。
ボルサリーノは寄り掛かった壁から身体を離しこちらに背中を向けるダックスに声を掛けた。
どんな言葉を掛けようか、どうやって遊ぼうかと考えたがそれはダックスの顔を見て消し飛んだ。

「(あれ。なんでおれ、コイツ見て興奮してんだ?)」

そうしてボルサリーノが取った行動は片膝を付いてダックスの男らしいふっくらとした手を取っての「求婚」だった。




「まぁ簡単に言えば一目惚れだったんだよね〜〜」
「…………へ、へぇ」
「あの時のダックスは本当に可愛くてね〜。ほっぺたプニプニで怯えた顔が更に良くって…あ。今が可愛くないとかじゃないよ〜?今も仕事でもプライベートでもベッドの中でもダックスは可愛「もうお前喋んな!!!」