「おれのお嫁さんになってくれね〜か?」
「――――あ?」

これは夢であろうか。
しがない新米事務員の俺に怪物新兵として同期内でも海軍内でも有名な「ピカピカの実」を食った「光人間」のボルサリーノが片膝を付いて俺の手を取りプロポーズをしているのだがこれは夢であろうか。
しかも本部の人通りの多い廊下のど真ん中でだ。(皆チラ見ではなくて完全に足を止めて凝視している。)
空いている方の手で頬を強めに抓ってみた。
痛い、痛いぞ。

「おいおい。頬を抓っちゃ痛いだろぉ?」
「これは夢だこれは夢だこれは夢だ」
「酷いな〜。現実だぜこりゃぁ」
「はっ!罰ゲームか何かだな!?そうだろボルサリーノ!」
「うーん。全く駄目だねこりゃ〜」

はぁ、と溜め息を吐いたボルサリーノは立ち上がり膝の汚れを落とすと俺を見下ろしニコッと笑った。
その笑顔が怖くて条件反射で身構えるとぬっと伸ばされた手が俺の腕を掴み無理矢理広げられお互いの鼻がぶつかる距離まで顔を詰められた。
何を考えてるか分からない笑顔に冷や汗がダラダラと勢い良く流れ俺の口から「え、な、なに、ちょ、っは?」と訳の分からない言葉が出る。

「もう面倒臭いから俺がアンタをどんだけ好きだか一気に教えてやるよ〜」
「え、いや何を言っ―――んぶぅ!?」

厚い唇が俺の薄い唇と重なり喋っている途中だったので開いた口からボルサリーノの舌が無遠慮に入って来て口の中を暴れられる。
キス自体は歴代の彼女と何回かした事あったが舌を入れた…ディープキスは未経験な俺にとっては苦しくて変な感覚であった。
逃げようにも腰に腕を回されて動けないし戦闘力10の俺のキックを喰らわすが戦闘力未知数のコイツには効かずで如何し様か考えるが如何せん気持ち良くなってきてしまい思考がぼやけてきた。
視界の端に映る海兵達は顔を両手で隠すが隙間を開けて見てるのがバレバレだぞ後で覚えてろ。

「っ、ふぅ…はぁ、んぁ…っ」
「ん…はぁ、あ〜、ダックスの唇、気持ち良いねぇ〜…」
「!?(コイツやべぇ!)や、やめ、っ…もう、分かった…からっ!」
「……ちぇ、まだしていたいんだけどねぇ〜〜」

ボルサリーノは名残惜しく最後に俺の唇を長い舌でべろりと舐め離れた。
その際に舌打ちとぼそっと不吉な台詞が聞こえたが聞こえない振りを全力でしてボルサリーノと向き合う。
さっきよりも深まった笑顔で見詰めるボルサリーノに俺は逃げられないと悟った。

「それじゃぁ、末永く宜しくねダックス〜〜」
「…ヨロシクオネガイシマス」

そう応えれば花が咲いた様な笑顔で再度ボルサリーノにキスをされそうになったので全力で逃げた。
翌日――「白昼堂々廊下でキスする新兵!?」と俺とボルサリーノの写真(モザイク処理済み)がデカデカと載った号外を見て膝から崩れ落ちた。