深夜一時半。テーブルに向かい合う男と女――俺とヒナだ。
何故こんな時間に向かい合っているかって?
それは……。

「………ヒナ、」
「イヤ。話しなんて聞きたくないわ」

そう言ってヒナはテーブルの上に置かれたピンク色の名刺を睨んだ。

数時間前――仕事終わりの時だ。
仕事が早めに切り上げられたのでさっさと帰ってヒナの為にメシでも作ろうかと考えながら帰り支度をしていたら上司に声を掛けられた。
すると「ちょっと付き合ってくれよ!」と強制的な誘いを受けられ渋々連いていった場所は目に痛い色を使ったネオンが眩しい如何わしい店……風俗店だった。
俺にはヒナが居るので入りたくないと全面で出したが呆気無く無視され上司と共に入店し、それ…で…ぅ、…そ、そこからは「地獄」の一言でもう思い出したくも無いし話したくも無いからカットする…!
そうして揉みくちゃにされ息も絶え絶えに帰宅すればヒナが出迎えてくれ(そうだよな。だって俺が着いたの夜中の一時だもんな)上着を預かると脱がしてくれた。
どうして遅くなったのかと言われたが素直に風俗店に行ってきたと言えば恐ろしい目に遭うと思い咄嗟に「急な飲み会だったんだ」と返した。
その答えに「大変ね」と微笑むヒナの顔を見てキャバ嬢達の事を忘れそうになったのだが。

「―――ねぇ。“これ”なに?」
「え、……っ!?」

そして冒頭に戻る。(まさか上着のポケットに名刺を入れられていたとは気付かなかった。)
嘘は言わずに最初から風俗店に行ってきたと謝りながら言えば良かったと心の底から後悔している。
名刺を睨んでいるヒナは俯いており桃色の髪が顔を覆い隠している。
だがどんな顔をしているか分かる――酷く傷付いた顔をしていると。

「…分かってる、わ。付き合いで行った位…分かってるっ」
「……ああ」
「でも、それでも嫌なの…ヒナ嫌悪」
「すまない。連絡をするべきだった。本当にすまない」

肩と声を震わせるヒナの姿を直視出来ず目を背けてしまった。
ヒナは俺が自分以外の女と交流するのを酷く嫌う。
酷い束縛をされているとは感じてはいるが嫌だと思った事は一度だって無い…それだけヒナは俺が大好きだと行動と態度で示すのだから。
だけど俺はそんなヒナを裏切ってしまったのだ。

「もう君以外の女とは会わない。例え上司との付き合いでも」
「……ん…」
「これは今すぐ燃やして来る。灰は遠くへ捨てよう」
「…良いわ。私がやる」
「そうか」

ヒナはそう言って細い指で汚い物に触れるかの様に名刺を摘まみ適当な袋に入れゴミ箱へと捨てた。


あれから俺は勤めていた会社を辞め自宅で出来る仕事を見付けた。
同時に前以上にヒナ以外の女と接触しなくなった。
不満何てないさ――俺は初めからヒナ以外を見ていないしそれが俺達の最高の愛なのだから。