これは数ヶ月前の事だ――急な吐き気、酸っぱい物を無意識に求める、急に気分が落ち込む…という忙しない自分の体調をヴェルゴに話したら病院へと連れて行かれると。

「おめでとうございます」

…と、初老の医者に笑顔で「妊娠四週目ですね」と続けて言われた。
生物学上「男」である俺が妊娠したなんて何の冗談だと言おうとしたが思考が追い付かず言葉が詰まり訳分からん手帳と資料を渡され定期的に病院に来て下さいねとねーちゃんに言われた。

という出来事があったのを懐かしみながら特注で取り寄せたソファに寝そべりながらキッチンからパクった苺を一粒口へと放り込む。
うまい。

「あー…酒飲みてぇ…ニコチン…」
「駄目だ。子供に障る」

独り言を呟いたと思ったが腹の子の父親である名前がフルーツの盛り合わせを持って後ろに立っていた。
顔の三分の一を隠している大き過ぎる黒いサングラスをした名前はフルーツをテーブルに置くと俺の足元に出来た小さなスペースに座った。

「調子はどうだドフィ?」
「フッフッフ。順調だ。さっき蹴ったぜ」
「そうか」
「ん?撫でてくれるのか?」

冷たい手が俺の腹を撫でる。
もうすぐ臨月を迎えようとする俺を気遣っているのか名前は仕事を早めに切り上げては極力傍に居てくれる。
その手に自分の手を重ね一緒に動かせば気分が良くなったのか腹の中のガキが大きく動いた。
ぽこぽこと殴ってるのか蹴ってるのか分からないが元気な様子に名前はサングラスの先にある瞳を細めキスを落とした。

「しかし大きいな」
「フッフッフ。双子だと言われたぜ」
「双子……そうか」

周りの奴等には分からない微妙な変化だが笑った名前は耳を腹へと傾けまだ活発に動く子供に話し掛ける。

「元気だな、凄く良い事だ。もう少しで産まれてくるんだな。待っている、ゆっくりで良い。無理して早く出て来なくても良いからな」

心地良い低い声は俺の耳にも届きそれは眠りを誘うのには充分で俺の瞼はゆっくりと下りていった。