ゾロは産まれてこのかたこんなにも困った事が起きた事は無かった。

「…チョッパー。もう一回言ってくれ」
「“妊娠”してるぞ!」


「―――と言う訳で俺は妊婦になった」
「……すっっっげー!ゾロすっげーー!おめでとう」
「おう」
「………、は!いやいやいや“男”が妊娠するかってツッコメよ!?」

腕を組んで男前に妊婦発言をしたゾロにルフィは肉を頬張りながら目を輝かせた。
それに突っ込んだウソップは間違っていないと思う。

ゾロは皆が集まる食堂にて食事をしている最中に立ち上がり「オメー等に話したい事がある」と妊娠を告白した。
そうすればサンジは咥えていた煙草を落としナミは持っていた新聞を左右に引き千切りチョッパーは嬉しそうに足をばたつかせロビンは何時もの様に微笑みフランキーは「スーパーだな!」と両手を上げブルックは驚きで顎の骨が外れる等多種多様な反応を見せた。
そんな仲間の反応を無視しゾロは視線をずらし口とコップからコーヒーをだばだばと垂れ流す名前を見詰め口を開いた。

「妊娠した。男と女どっちがいい」
「ゾゾゾゾゾロさん!に、にに妊娠って、マジっすか!?」
「嘘は言わねー。あんだけ中に出されれば子供が出来ても可笑しくね「うおおおおいっ!ちょっと口を慎んでくださいましぃ!?」んぶっ」
「…おいおい本気で言ってんのかよマリモ剣士さんよぉ…」
「そ、そうよ!もう一度確認してみれば?もしかしたら便秘かも…」
「俺は毎日快便だ」

サンジとナミの言葉をバッサリと斬ったゾロは上着を脱ぎ微かに膨らんだ腹部を見せる。
腹筋が六つに割れていた腹は今は薄らとしかなくぽっこりと飛び出た腹部を見て本当だというのが分かったサンジとナミはブルックと同じ顔になった。
ゾロはやっと分かったかと腹部を優しく撫でると目を見開いて固まる名前に困った顔をする。

「……迷惑ならそう言ってくれ。船を降りる事は出来ねーが育てるのは俺一人でやる。お前は何もしなくて良い」
「っんでそうなるんだよ!てか妊娠してたなんて…いや、男が妊娠は可笑しい…うーん…って今は考えてる場合じゃねーよ俺!」
「…ふふ。私達はお暇しようかしら。ね、皆?」
「んぁ?あーそうだな。アオ!行くぞオメー等!!」

ロビンの掛け声に従い食堂から出て行く皆を見送ったゾロは名前の隣の椅子に腰を掛け腹部に手を当てる。
名前は頭を抱えてぶつぶつ呟いておりゾロは黙っていた方が良かったかと考えてしまった。

「なぁ。俺はお前の言葉に従う。だが子供を堕ろせは言わないでくれ。俺はコイツを産みたいんだ」
「……言わねーよ。てか、何で妊娠してたのを黙ってたんだよ」
「黙ってたんじゃねー。つい最近知ったから言えなかった」
「普通に可笑しいって気付くだろ!?……はぁ。お前って奴は…」
「…………悪かったな」

ゾロの言葉に名前は溜め息を吐いて額を手で押さえる。
こんな態度を取っている名前だが内心嬉し過ぎてゾロを抱き締めキスの嵐を降らしたいと我慢しているのだ。
しかしそんな事をすれば母体にも生まれてくる我が子に悪い衝撃を与えてしまうだろうと思い留まっている。
未だ不安な顔をして自分を見詰めるゾロに名前は微笑むと腹部に手を当てゆるりと撫でた。
行き成りの事に驚いたゾロだがその優しい手付きに目を細め口角を小さく上げる。




「それにしても…」
「ゾロが…」
「妊娠、ねぇ…」
「ふふ。お目出度い事じゃない。何か不満でも?」
「そうじゃないけど、その、男が妊娠ってのが…」
「アァオ!そんな小せー事を気にしてたらキリがねーぞ!」
「ヨホホ!その通り!そうしましたら産まれてくるゾロさんと名前さんのベイビーに一曲作ってみました!盛り上げますよー!ヨホホホ!」
「いやまだ早ぇーよ!」
「なぁなぁ!女かな!?男かな!?ルフィはどっちだと思う!?」
「ししし!どっちだって良いさ!俺達に新しい仲間が増えるんだからな!!」