最近食欲が湧かないとか行き成り気持ち悪くなって嘔吐するとかやたらと酸っぱい物を食べたいとかあったがまさかまさかそんな訳ないこの症状は女性だけなのではという思いを乗せて誰にも見付からない様にこっそりと病院へ行けば当たって欲しくなかった結果が待っていた。

「おめでとうございます!」
「……おーのー」

三ヶ月です!とめちゃんこ可愛い看護婦さんに良い笑顔で言われた俺の心境プライスレス。

はてさて。無事に母子手帳を受け取った俺ですが一つ問題がある。
一人称からして俺は「男」だ…と言いたいがここは“偉大なる航路(グランドライン)”なので通用しないと瞬時に悟ったので問題が解消した。
何このスピード解決馬鹿なの死ぬの?
手にした母子手帳を見て溜め息を零し平らな腹を撫でながらこの子の父親を思い浮かべ泣きそうになった。


久しぶりの休みを貰ったのだが何処にも行く気にもならなくなった俺は自室で過ごす事にした。
机に顔を押し付け何回目か分からない溜め息を零し窓から見える青い空を見詰める。
あ、雀が飛んでるーうふふーと可笑しくなった思考回路で現実逃避をしてた所為か何時の間にか部屋に入って来てた恋人に気付かなかった。

「おやおや〜。出掛けないのかい〜?」
「ちょっと困った事が起きて――ん?…ん!?」
「おっと。よ〜、会いにきちゃったよぉ〜」

何時もの飄々とした喋り方とまったりとした笑顔のボルサリーノさんの顔が横向きに視界に入り慌てて状態を起こした。
驚いてるのか驚いてないのか分からない声を出して顔を退かしたボルサリーノさんに苦笑いをする。
出来れば早々と去って欲しいと願うが叶わなかった。
俺の顔を見て首を傾げたボルサリーノさんは少し考える素振りをすると俺の両脇に手を差し込み平均男性の身長と体重を遥かに超える俺を持ち上げた。
そうしてソファーに座ると俺を横に向けて太腿の上に落とした。
何故その細いモデルの様な腕で持ち上げられるんだと思ったがこの人大将で化け物だったなと考えが纏まった。

「何だか困ってる顔をしてるねぇ。相談に乗るよ〜?」
「え、あ、…いやぁ。そんな何もないですよ」
「はい嘘。君は嘘を付く時左手を首に持って行くからバレバレだよ〜」
「げ(マジか…)」

ボルサリーノさんに言われた通りに首に当てている左手をゆっくりと腹に下ろし問題の種を隠す様にする。
その間も俺に質問してくるボルサリーノさんにどう答えれば良いか困っていると困った様に眉を顰めた顔で見詰められた。

「わっしには言えない事なのかい?」
「っ言えない、というより…言い辛いというか…」
「――はっ!もしや…わっしに愛想を尽かし「それは無いです」お〜。真顔で言われると恥ずかしいね〜」

とんでもない事を言い出そうとしたボルサリーノさんの言葉を遮ってつい真面目に答えれば照れて顔を仄かに染めるこのおっさんマジ可愛い。
ではなくて、俺の腹の中に居る命についてどうにか切り出したいのだが今この空気では言い出せない……と考えてたらバッドタイミングで胃からせり上がって来る異物感に口を押さえ備え付けてある洗面台へと駆け出した。

「っぅぇ、え、ぐぅ、ふぅ…ぉえっ」
「…………名前?」
「す、ませ…っすみ、ませんっボルサ、リーノさんっ…」

意味も無く背中越しにボルサリーノさんに謝りその場に尻餅を付く。
コツコツと踵を鳴らして近付いて来るボルサリーノさんから逃げ様と動こうとするがすっぽりと長い腕の中に閉じ込められ動けなくなった。
これがマタニティーブルーか。

「おいおいどうしたのさ名前〜。どこか痛いのかい〜?」
「っお、俺、いま、腹にっ腹に、いるんで、すっ」
「うんうん。何がいるんだい?」
「あな、たとの…“子供”がっ…!」
「おー……お。おぉっ…?」
「ぅ、うぇぇ…っぼるざりーのざんんんっ!」
「っ、おお。泣かない泣かない〜。名前〜泣かないでおくれ〜」

カミングアウトしたのと緊張の所為で繋ぎ止めていた糸がプッツンと切れ子供の様に泣く俺にボルサリーノさんは珍しく驚いた顔をして背中を撫でる。
ぼろぼろと落ちていく涙がカーペットにシミを作っていく。

一通り泣き落ち着いた後って物凄く気まずいよな。
お互いにカーペットの上に座り俺の両手をボルサリーノさんの大きな両手が包まれた状態で居ると重々しく向こうの唇が動いた。

「子供ってのは――“妊娠”した、って事かい?」
「ぅ、まぁ、そういう事…ですね」
「ほ〜。子供ね〜…うん、子供…」
「俺、嘘は言ってません!証拠に母子手帳が鞄の中に―――っ、」

しきにり子供という単語を繰り返すボルサリーノさんに母子手帳を見せ様と立ち上がろうとしたが手を握られたままで立つだけとなってしまった。
俯くボルサリーノさんの顔が怖く取りに行くというのを表にし逃げ出したいのだが一向に手を離してくれない。
軽く振ってみるが一緒に動き離れず片手を抜いてみようとするが抜けずでどうしようかと考えていると勢い良く顔を上げたボルサリーノさんが俺に見せた表情は――満面の笑顔だった。

「そうかそうか〜。子供かぁ…わっしと名前の子供か〜」
「あ、あのボルサリーノさん…?」
「うーん。まだ実感は湧かないけどと〜っても嬉しいねぇ、うん」

そう言って俺の手を自身へと引いたボルサリーノさんは耳を腹へ当てる。
形もままならなければ動く事もしないというのにボルサリーノさんはまるで腹の子の音を聞いている様に耳を傾け目を細めた。

「嬉しい、嬉しいよぉ…名前。わっし良いパパになるからね〜」

本当に嬉しそうな顔をするボルサリーノさんを見て俺はまた涙が流れた。

「パパ、だなんて…キャラじゃないですよ……」

可愛くない事を言ってるのにボルサリーノさんは花が咲く様な笑顔を俺に向け「ありがとう」と言った。




「いやー。まさか名前が妊娠するとはね。おめっとさん」
「目出度い事じゃぁ。男か?女か?」
「ん〜。まだ三ヶ月だから分からないけど…わっしにはどちらでも良い事だね〜」
「あーあ。幸せそうな顔をしやがって」
「幸せだからね〜ふふふ」
「そいで、名前はどうしてるんじゃ?まさか仕事に――」
「行ってないよぉ。てか行かせる訳ないだろ?腹の子に障るからね。今は病院に行って妊婦の生活について聞きに行ってるよ〜」
「あらら。良いのかいお父さんはこんな所に居ても?」
「いやそれがねぇ…「送り迎えだけお願いします!良いですか送り迎えだけで良いですからね!」って置いてかれちゃって…」
「……まぁ。相手が海軍大将だって知られたら大変だろうからな」
「しっかし…」
「「ボルサリーノが父親かぁ……」」「喧嘩売ってるんだったら買うよ?ん?」