「ミューラーくん、大丈夫?」
「お、おう……」

最初は女なのに身長も筋肉も有るなんてどうなんだ、と思ってた時があったが今はそんな事どうでも良いと感じてしまう。
寧ろトキめいた。



何時も通りに忠犬野郎にイチャモン付けられたので相手してやったら何かが奴に触れたのだろう肩を強く押された。
そんな事は何時もの事なのでやり返せば良かったのだが手は空振り出来なかった。
俺の身体が後ろへと傾いたからだ。

「ーーーっジェイク!」

そういえばここ階段だ――と必死な顔をして俺の名前を叫んだ忠犬を視界に入れながら冷静に考え次に来る衝撃を待った。
だがそれは硬い地面ではなく柔らかい様で硬いクッションだった――それが冒頭の事で俺がfirstに思った事だ。
何時もは忠犬に怒られたり怒鳴られたり殴られたり蹴られたり発砲されたりとそれから逃げるfirstの姿ばかりを見ていたのであまり好い恰好を見た事がないのもあって更にトキめいた。

「吃驚したよー。いきなり上から降ってきたんだもん」
「……ぅあ、」
「でもどうして降って――あ、ニヴァンスさんじゃないですか」

俺を横抱きして立ち上がったfirstは階段をひょいひょいと上がると唖然とした忠犬の前へと降ろされた。
赤くなった顔を見られまいと顔を俯かせfirstから少し距離を置く。

「さっきの見ました?私、ビックリしましたよー。だってミューラーくんが降ってきたんですもの!」

どうして俺が降ってきたか分かってないfirstに赤くなった顔を見られない様に逸らしながら溜め息を吐けば隣りから重く背筋が冷たくなる空気が漂った。
恐る恐る視線を向ければ無表情で「何で俺じゃなくてお前が落ちたんだ」と言いたそうな目をして俺を見ていた。
俺を階段から落とした事に関して全くこれっぽっちも反省しておらずfirstに横抱きされたのを羨ましがるとは何様だと額に青筋を浮かべながら思った。
とりあえずfirstはこの男から放つ重圧な空気を読んで欲しい。