今日も元気にマリクの怒鳴り声がエルサレムに響く。

「何で、お前と、いう、奴はっ…!!」
「落ち着け友よ。流石にその厚さの本で殴られれば俺でも危ない」
「ほう。なら試してみようか?」

マリクはカウンター越しにアルタイルを睨むと厚くずっしりとした本を掲げる。
咄嗟に構えたアルタイルだが後ろに立つ小さな存在に気付きマリクの前へ差し出した。

「マリクっ!そんな顔をするからfirstが怯えてるではないか!?」
「マ、マリク様…その、己が悪いのですっ!」
「いや違うぞfirst。もっと小さく事態を納めなかったコイツが悪い」

マリクが怒る事となった経緯はこうだ。
エルサレムに遊びに来たアルタイルとfirst。
そこに昼間から酒を煽った男達が現れfirstに絡み強引に如何わしい店へと連れ出そうとした所をアルタイルに成敗された。
それだけなら良かったのだがアルタイルは何を思ったのか男達の身包みを全て剥ぎ取り人が行き交う大通りに男達を晒したのだ。
アルタイルのした事は瞬く間にエルサレムに広がりマリクの耳にまで行き届き今に至る。

「アルタイル様は助けてくださったのですっ。己がもっとしっかりしてれば…」

悲しそうに瞼を伏せ唇を噛み締めるfirstの姿にマリクは言葉を詰まらせる。
想いを寄せる者の悲しい顔など見たくないがここできちんとアルタイルを叱らなければ調子に乗ると何かの使命感に駆られたマリクは苦い顔をしてアルタイルに再度向き合った。

「アルタイル、firstを助けたのは良しとする。だがここまでするとはどういう了見だ。アサシンとは隠密行動…つまり表だってはいけない。それはお前が一番分かって…ないからこうなったのだな、そうだな。良し一発殴らせろ」
「ちょ、待てマリ――ぐぶぅ!」
「アルタイル様ーー!」

爽やかな笑顔に血管を浮かべたマリクから綺麗な拳がアルタイルの顔面へめり込んだ。