とある酒場に俺は出向いていた。
辺りを見渡せば男達は華美なドレスに身を包んだ女を片手に酒に酔う姿が視界一杯に広がる。
笑い声と酒の匂いが頭に響き長居はしたくないが俺には会わなくてはならない者がいるのだ。

「よー!まだfirstは出ないのかー!」
「今日も寂しい俺達に一時の夢を見せてくれーっ!」

男達の掛け声と共に店内に音楽が鳴りだすと幕の垂れた小さな舞台からここの誰よりも美しいドレスを着た一人の“女”が出て来た。

「―――」

“女”――firstはそのドレスに見合った顔で微笑むと大きく息を吸い込み声高らかに歌い始めた。
澄んだ声に皆がうっとりとした顔で見つめる中俺は壁に身体を寄り掛からせ目を瞑り聞き流した。
俺は歌を聞きに来たのではない。
この酒場の歌姫――firstに会いに来たのだ。
そんな事を考えていればfirstと目が合った。

「――、―――」
「………」

俺に向かって小さく手を振ったfirstはくるりと後ろを振り向くと舞台の奥へと消えてしまった。
早いお開きに不満の声が掛かるがすぐにさっきと変わらない空気になる。
壁に預けていた身体を離し誰にも気付かれない様俺は店の裏側へと入って行った。

「コナー!会いたかったわっ」
「first…」

入るなりさっきの姿のままのfirstは俺の胸に飛び込み嬉しそうに頬を摺り寄せた。
その細い身体に腕を回し抱き締める。
ふわりと香る「コロン」という香料は普段は嫌いだがfirstのは好きだ。

「今日も綺麗だ」
「あら。ありがとう」
「だが――俺は本当の姿の方が好きだ」
「…貴方って本当に直球よね」

firstは困った様に笑うと俺から離れ後ろを向きドレスを脱ぎ始めた。
ぱさり…ドレスと一枚ずつ丸め込まれた布が二つ落ちるのを見送りfirstの腰に巻かれたコルセットに手を伸ばす。
元より細い腰を更に強調する様に巻かれたコルセットの細い紐を解いていけば締め付けが緩くなりドレスの上へと落ちた。
女性物の下着を履いた下腹部以外纏う物が無くなったfirstの身体を反転させ俺に向き合わせる。
頬をほんのりと赤く染めたfirstは俯きながら小さく話す。

「恥ずかしいわ…」
「もっとよく見せてくれ」

傷もくすみも無い象牙色の肌、浮き出た鎖骨の下には舞台の上で見た豊満な胸――は無く淡い桃色の小さな果実が乗った真っ平な胸が現れた。
そう。firstは男だ。
だが心は女である。

「綺麗だ…触れて良いか?」
「ふふ、聞かないで頂戴」

firstは妖しく笑うと俺の首に腕を回し更に身体を密着させてきた。
それを合図にfirstの細い顎を掴み上げ小さな唇に喰らい付いた。