「戦場に立つと何時も身体が恐怖に包まれる。
広がる感染、悲鳴、血、襲い掛かる化け物達。
死んでいった同業者達を何度も見て来て自分も何時かこんな終わり方をするのかと考える。
今日も支給された武器を持たせられ戦地へと軍用車が駆けていく。

あちこちで発砲音と悲鳴が轟く。
足元には同じ車に乗っていた若い男性が顔半分を無くし息絶えて転がっていた。
後ろにも横にも…私を囲む様に死体が転がっている。
身体の芯から湧き上がる恐怖に歯の根が合わない。

「た、助けてくれえええ!」
「! 待て!止めろ――っ」
「うぎゃあああっ!!」

近くに居た男が銃を捨て去り逃げるが――出来なかった。
武器を捨てたことにより立ち向かう術が無くなった男が化け物に襲い掛かられる。
化け物は男を押し倒すと腕を振るい腹へ突き刺した。
ブチッと引き千切られる音が聞こえると化け物はゆっくり男の腹から手を引き抜くと真っ赤に染まった臓物を取り出した。

「ぅ、うわあああ!!」

それを引き金に私は男が捨てた銃と自分の銃を化け物に向かって乱射させた。
上手い具合に頭に当たり小さく蠢きながら死に絶えた化け物を退かし男の身体を抱き起こした。
目を見開き光の無くなった瞳に他人だけども涙が出て来た。
男の身体をそっと地面に寝かせ胸の前に両手を置き花の代わりに彼の使っていた銃を抱かせ私は更に奥へと向かった。」


「向かって来るジュアヴォ達を撃ち殺し道を切り開いていくピアーズとクリス隊長はあまりに酷い戦場の光景に眉を潜めた。
今回のは格段と酷く仲間達も二人の気持ちと同じであった。

「早く終わらせましょう」
「ああ…」
「っ待って下さい!向こうから音がします!」
「何だと…確認出来るか?」
「はい!」

ピアーズがスコープで確認すると数体のジュアヴォに向かって発砲する一人の姿を発見した。
服装からしてどこかの軍隊の様ではないとピアーズはクリス隊長に報告する。

「民間人…いや傭兵だな。助けに行くぞ」
「Yes.Sir!!」

クリス隊長の掛け声にメンバーは敬礼すると駆け出した。
横から前からと現れるジュアヴォ達を撃っていくと発砲音と倒れる音が近くに聞こえてきた。
クリス隊長は後ろのピアーズにアイコンタクトをすると立ち止まり物陰に隠れ姿を確認した。

「ガァ!!ギィァアアア!!」
「ギギィ―――ッガ!」

短く切られた茶色の髪に集中して敵を見詰める切れ長のアイスブルーの瞳。
身長はピアーズより少し高く細身だがバランスの取れた四肢。
戦場に立つには不釣り合いな容姿にピアーズは驚いたが的確にジュアヴォの頭を狙い撃っていく姿を見て一般人では無いと察した。
ピアーズが観察している間にも時折ナイフを使いジュアヴォの首を掻っ切ったりと高い身体能力を見せる。

「隊長…アイツ只者じゃなさそうですよ」
「その様だな。だが襲われてるのには変わらん。行くぞ…!」

物陰から一斉に飛び出しジュアヴォ達を狙撃していく俺達。
行き成りの俺達の登場に驚き動きが止まる傭兵だが次々と出てくるジュアヴォ達に視線を向けるとトリガーを引いた。

数分後。立っていたのは俺達と傭兵だけだった。
クリス隊長が声を掛けようとするが先に傭兵が動き出し倒れたジュアヴォ達に近付くと使えそうな物を取り出していく。
呆気に取られた俺達を他所にせっせと物品を補充し終えた傭兵は頭を下げお礼をするとそのままそ去ろうとしたのでピアーズが声を掛けた。

「おい。何処に行く気だ?」
「もっと化け物を倒さないと金が貰えないんです」
「たった一人でか?」
「ええ」
「なら終わるまで俺達と行動を共にすればいい」
「…………はい?」

ピアーズとfirstの一問一答の会話にクリス隊長が割り込んだ。
「隊長!」とピアーズが何かを言いたそうに呼ぶがクリス隊長はピアーズに手を差し出しストップを掛ける。
クリス隊長は人の良さそうな笑顔で傭兵に向かって手を伸ばすと話し始めた。

「俺はクリス・レッドフィールド。さっきの戦いっぷりは凄かったな。誰かに教わったのか?」
「…first・familyです。教わってません独学です」
「それは凄い!君みたいな奴がうちの部隊に来れば百人力だな…」
「っ隊長!悠長にスカウトしてる場合じゃないですよ!?」
「悪い悪い」

握手をすればクリス隊長は嬉しそうに話し掛けて来た。
firstは見た目は厳ついが手から伝わる彼の性格の良さに微笑み軽く自己紹介をした。
ピアーズは得体の知れない人物と仲良く接するクリス隊長に警戒の言葉を掛けるが効いてはいなかった。

「レッドフィールドさん…お言葉は嬉しいのですが自分は大丈夫です。それにその方の言う通り自分は得体の知らない者です」
「…そうか」
「隊長。さっさと戻りましょう」
「ああ。でも…」
「隊長!!」

firstが説得するが引こうとしないクリスにメンバーもざわめき始めた。
気まずい空気が流れfirstは今度こそ後ろを向き歩きはじめる。
クリスは名残惜しそうにfirstの背中を見詰め小さくなっていく背中を見送った―――んだけど。やっぱり我慢できなかった隊長がfirstを追いかけて「ウチにおいで!」とBSAAのパンフレットを渡してあれよこれよとfirstは入隊したんだ」

「そうだったんですか…firstさんはBSAAに入る前は傭兵をしてたんですね」
「うん。こんなご時世だから怖くても金さえあれば良いかな…って思っててね」
「…でも、隊長と出会えて良かったですね!」
「ああ。隊長のお陰で今は金以外にも大切な存在を知ったからね」
「そうそう。だがあの時のピアーズは酷かったなぁ。警戒心バリバリでよー。常にfirstを怪しんでたよな」
「はい。ちょっと悲しかったですね」

眉を下げて笑うfirstは片手に持った煙草を一口吸う。
フィンは二人の回想話しに自分が入る前にそんな事があったとは…と思いながらミルクがたっぷり入ったコーヒーを飲む。
firstとマルコは昔話に花を咲かせ笑い合いフィンはその光景に微笑む――が彼等の後ろに現れた人物に顔を真っ青にさせた。

「よう。楽しそうな話ししてんじゃねー、っか!!」
「ははは…っ!?」
「――ぃ!?」

笑顔だが黒いオーラを出して現れたピアーズはそう言うと二人の頭に拳を振り上げた。
ピアーズは「フィン。また一つ学んだな」と言い痛みで蹲る二人の首根っこを掴みずるずると引き摺りながら去っていった。
何の事を言ってるのかとフィンは思ったが自分の腕時計を見て意味が分かった。

「firstさんとマルコさん…休憩時間とっくに過ぎてたんだ」

フィンは「時間厳守」というのを身を持って学んだのであった。