「おい。男女」
「? あ。ミューラー君」

お気に入りのランニングマシンでトレーニングをしてると後ろにミューラー君が立っていた。
彼はニヴァンスさんと折り合いが悪いからここには滅多に来ないので居る事に吃驚した。
ストップボタンを押してマシンから降り手摺りに掛けていたタオルで汗を拭き取る。

「珍しいですね。ここに来るなんて…隊長に用ですか?」
「あ?別にアイツに用なんてねーよ」
「じゃぁ…」
「アイツだけ用があるのに俺は無理矢理連れてこられたんだよ」
「ああ。エージェント・バーキンに」

相変わらず堅っ苦しい喋り方だなと言ってミューラー君はベンチに座る。
少し間を開けて隣りに腰を掛けるとぽいと膝の上に何かを置かれた。
私の好きな飲料水だ。

「これ、」
「ボタン間違えたんだよ。お前に買った訳じゃねーからな」
「…ふふ。ありがとうございます」

そう言うミューラー君だが彼は飲み物を持っていない。
素直ではないなと思いながら下手な事を言わずにお礼を言いプルタブを開けると気持ちの良い音が立った。
それを一口飲み感想を言う。

「美味しいです」
「そうかよ。てかアンタやり過ぎじゃねーか?」
「? 何がですか?」
「トレーニングだよ」
「ああ。私は女ですからね。体力だけでも作っとかないと」
「(…どこがだ?)そうかよ」

ミューラー君はそれ以上何も喋らなくなり腕を組んで前を向く。
私も喋らずに黙って飲料水を飲む。

「………」
「………」

彼との無言は以外にも嫌いでは無く、むしろ好きな方である。
これが他の人だったら何か話題を出さないとと考えてしまい可笑しな事を言ってしまうがミューラー君とだと何も言わなくても会話が出来ている感じがするのだ。
ちびちびと飲んでいると不意にミューラー君の手が私のタオルを掴んだ。

「アンタ。飲み方ヘタだな」
「え? あ。ありがとうございます」
「チッ。ガキじゃねーんだから零すなよ。ほら、ここも…」

口の端から零れたのを拭く取るミューラー君はお母さんを思い出させるなぁと思いながらされるがままになってると頭に鈍痛が走った。
それとその勢いで缶に口が当たり激しい痛みに襲われた。

「っ…、っ!!」
「おいfirst!?テメェ…っ何してんだよ!?」
「サボってお喋りしてんのが悪ぃーんだよ」

どうやらニヴァンスさんが犯人なようで、どうりで手加減も無い拳だと思った。
ミューラー君は殴られた私の頭に手を添えるがニヴァンスさんに払われる。
二人の間の空気が悪くなるのが肌にヒシヒシと感じた。

「女に手を出すなよ」
「ここでは女も男も関係無い。ちゃんとしないのが悪い」
「お前馬鹿か。だったら周りの奴等もそうじゃねーか」
「ノルマはクリアしてる。だがこの馬鹿はしてない」
「ああ言えばこう言う奴だなテメェはよぉ…っ」
「ああ?本当の事言ってるだけだろ文句あるか?」

激しい睨み合いと言葉の攻防戦が頭上で繰り広げられるが今は頭と唇(特に唇)の痛みで気にしてられなかった。
あまりにも唇が痛いので手を当ててみると「ぬる、」っとした。
「ぬる」?

「ん?………おわぉ」
「?なんだ…お、おまっ血出てるじゃねーかよ!?」
「道理で口の中が鉄臭いと」
「っ…first!タオルで塞いどけ」
「このタオル新品…「俺の使え!」ぶべふっ」

ニヴァンスさんに押し付けられる様にタオルを当てられるとじわじわと白いタオルを血で汚していった。
思いの外血が沢山出てることに今更ながら驚いているとミューラー君がまたニヴァンスさんに食い掛かっていた。

「お前馬鹿か!?血が出ちまう程するか普通!?」
「自分でもやり過ぎたって分かったから一々吠えるな!うるせーんだよ!」
「んだとっ…!もう我慢できねぇ…表出ろやゴルァ!!」
「上等だハゲェ!!」
「ハゲじゃねーよ!!」

私の心配をしてくれたと思ったらまた喧嘩を初めてしまいその勢いのままトレーニング室を出て行く二人を見送る。
尚も止まらない出血にどうしようか悩んでると私を呼びに来た隊長が「firstー。一緒にメシでも…きゃぁーっ!」と大変可愛らしい悲鳴を上げて医務室へと運んでくれました。
その後ニヴァンスさんとミューラー君がどうなったって?
ニヴァンスさんは隊長に、ミューラー君はエージェント・バーキンに物凄く怒られてしょんぼりしてました。

「ピアーズ!firstは嫁入り前の娘さんなんだぞ!?」
「…」
「ジェイク!心配するのは良いけどちゃんと手当しないで出て言ったらダメでしょ!」
「…」

「分かったか!?」
「分かった!?」

「…はい、キャプテン」
「…分かったよ」

二人の怒られている姿がご主人さまに怒られてる犬に見えて笑ってしまった。

「ぷっ…」
「「笑ってんじゃねぇよfirst!!」」
「「ピアーズ!/ジェイク!」」