『マーセナリーズに参加される選手は各自準備せよ。繰り返す…』

「とうとう…来てしまったか…」

誰もいないロッカールームのベンチに座り重い空気を背負い込んでいるのは俺だ。
実戦向きで大変喜ばしい演習だが…俺には地獄だった。
足元に立て掛けたトランクを膝の上に置き中身の衣装と武器をチェックする。

「今年はどんな……っ!?な、これは…!!」


今日は二ヶ月に一回のマーセナリーズの日。(通称マーセの日だ。)
「マーセナリーズ」とは技術開発班が作り上げた偽のジュアヴォ達を制限時間の間に多く倒す、若しくは全滅させるというゲームだ。
だが偽物でも能力や攻撃性は本物と同じで危険である。
この間はマルコが全治三ヶ月の大怪我で大変だったなぁ…。(毎回多くの被害者が出ているのだ。)

『次の選手…first・family選手とジル・バレンタイン選手。ステージへ』
「今回もよろしくねfirst」
「あ、ああ。よろしくジル」

パートナーのジル(教師の格好)に背中を叩かれる。
アナウンスで呼び出された自分の名前に慌てて支給されたマシンガンを構えステージの入口前に立つ。
ぶっちゃけると出たくない…出たくないがジルと一緒に出場出来るし高得点を出したらデ、デートしてくれるという条件を貰ってしまったので出ざるを得なかった。

「…はぁ」
「何よ溜め息なんて吐いて。大丈夫よ。私が付いてるわ!」
「いや。そういうんじゃなくて…」
「ほら!ゲートが開くわよ!」
「う、うん」

『3…2…1…GO!!!』

バァン!!と合図と共に目の前の扉を蹴り上げると観客席が沸き上がった。

『エントりーNO.3――family隊員&バレンタイン隊員!!今回も素晴らしい衣装で出てきましたぁぁあああ!!』
「「「わあああああ!!!」」」
『今回のバレンタイン選手の衣装は…「教師」です!眼鏡に黒のスーツ!極め付けは「学級日誌」だあああ!』
「「「おおおおっ…」」」
『続いてfamily選手は…「女子高生」だ!「女子高生」だああああ!!!』
「「「おおおおおおっ!!!」」」

マイクが音割れしようが関係無く実況者が叫ぶと観客席が反応を見せた。
ジルでその反応は分かるが何で俺の時もするんだよ!?(しかもジルより良い反応に聞こえるし!)
そう。実況者の言う通り俺の衣装はジルに合わせた“女子”生徒の衣装だ。
白の半袖のシャツは胸元のボタンが閉まらなく真ん中まで開けており、プリーツの効いた黒地に灰色のチェックが入ったスカートは股間を隠すのにはギリギリの長さだ。(少しでも大きく動けばアウトだ。)

「うううっ…もう嫌だよ…!ジル、早く終わらせぶふっ…!!ジ、ジル!?」
「先生よ。先生とお呼び!」
「ええええっ!?」

ジルの名前を呼んだらビンタを喰らいその場に倒れてしまった。
倒れた所為で捲れたスカートを慌てて押さえながらジルを見る。(「教師」じゃなく「調教師」の目です。)
その間にも襲って来るジュアヴォ達をジルは見向きもしないで撃ち倒していく。
こ、怖いよ…ジル…。

「ジ…せ、んせい…」
「っ…!え?何か言ったかしら?」
「! ジル!ふざけて「は?」…先生…っ、」
「もっと大きな声で!!ワンモアセッ!!」

「っ――先生!!」

『――――!!』
「「「――――!!」」」

「――っああもう!素敵よfirstー!!」

羞恥心を捨て叫ぶとジルは妖しく笑い何処から出したのかロケットランチャーをぶっ放した。
そして風圧で俺の服が吹き飛んだ。


『これにてマーセナリーズを終了とします。結果発表です』

出場者全員が出終わり結果がスクリーンへ出た。
十位から始まり一位は…俺達だった。

「やったわねfirst!私達、一位よ!」
「…うん。俺嬉しい」

情け程度のタオルを身体に巻き付けた俺の横でジルが嬉しそうにピョンピョンと跳ねる。
二位のクリス(熊の着ぐるみ)とピアーズ(リスの着ぐるみ)チームに「おめでとう(お疲れ様です)」「おめでとうございます!(似合ってました!)」と言われたが満身創痍な俺はただ頷く事しか出来なかった。

「約束通り…今度の日曜日、出掛けましょうか」
「っ。う、うん…お願いします」

最後は酷い目になったのに綺麗に笑うジルを見て元気が湧くなんて何て単純な男なんだと自分で自分を嘲笑った。