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紫の憂欝

私立新世海高校、生徒数は約1000人を超えるマンモス校と呼ばれる高等学校で、東西南北で分けられる地区の中央に位置する高校のため、多くの生徒がこの高校へと進学してくる。
俺もそのうちの一人だ。
指折りの進学校というわけでもないがそれなりに偏差値は高いため、不良と呼ばれる人種はいない。見た目が派手なやつは多々いるが。
入学式中に見かけたのは麦わら帽子をかぶったやつと緑頭と金髪と…上げ出したらきりがないが俺自身も刺青が入っているので何も言えないし言うつもりもない。
ただ、延々と長い式に欠伸を一つもらした時に壇上へと上がった生徒会長を見て一瞬新入生が固まったのはひどく覚えている。
まさか仮面で金髪、しかも長髪の男が生徒会長とは。
大丈夫かこの学校。とは思ったものの、会長がアレなせいか校則も緩く非常に生活しやすい。
しかし、しかしだ、一つだけ勘弁してほしいことがある。
それは


「トラファルガー!今日こそ俺とっ」


コレだ。
いつどこで何をどうしたのか分からないがこの無駄に筋肉質で無駄にでかい男に付きまとわれている。
二つ上の先輩らしいがそんなことはどうでもいい。男だ。女じゃねえ男。
意味が分からない。気持ち悪い。


「あ!ちょ、待てっ!」


取りあえず、今日も奴から逃げるために校舎内を逃げ回るはめになった。
後ろから俺を呼ぶ声が聞こえるが無視して走る。
この鬼ごっこみたいなものは俺が校舎を出た時点で終了することが気付いたら暗黙の了解になっていた。
鬼ごっこなんてそんな軽いもんじゃねえけどな。
こっちは何時でも必死だ。捕まったらなにされるか分かんねえ。
つーか男になんで迫ってくんだよ。女にもてないからって男に鞍替えしたのか?もしそうだとしたら安心しろ。お前は男にも女にもモテねえよ!
なんて心の中で奴への罵倒をつらつらと述べていたせいか、後ろの気配を気にし過ぎていたせいか、目の前の人影に気付かなかった。
つまり全力疾走のままぶつかったってことだ。


「わっ!」
「っ?!」


その反動で後ろに身体が傾いたのを感じて痛みに備えて目を強く瞑った。
が、一向に痛みは来ず、代わりに感じたのは腰にまわされた逞しい腕と顔にあたる温かい胸板だった。


「あっぶねえな。何急いでんのか知らねえけど前見ろ」


聞こえた声に恐る恐る目を開け、上を見ると鮮やかな赤が視界に広がった。
綺麗な、燃えるような赤い髪に惹かれるように手を伸ばす。


「…あつく、ない」
「はぁ?つかお前俺の話し聞いて」
「トラファルガー!」
「ひっ!」


急に後ろから聞こえた声に反射的に目の前の体に抱きつく。
どうしようどうしよう忘れてた。もしかしてこのまま奴に捕まって…
最悪の事態を考えると体が震えだした。
するとそれに気付いたのか、腰に回っていた手が優しく俺の背中を叩いた。


「やっと捕まえ…って!ユースタス・キッド!なに人の女抱きしめてんだてめえ!」
「…アイツはああ言ってっけど」


誰がいつてめえの女になったんだふざけんな消すぞてめえ!そもそも俺は男だっつーの!
なんて心の中で叫びながらも声は出ず、ふるふると首を横に振った。


「お前の女じゃねえみてーだが?フラれたんなら大人しく引けよ」
「う、うるせー!そもそもてめえはずっと気にくわなかったんだよ!俺とキャラ被りやがって!」
「あ?かぶってねえし。つかお前誰だよ」
「髪の色が被ってんだよ!染めろてめえ!」
「俺のは地毛だっつの。染めんならお前が染めろ。って、だからお前誰」
「キャラ被りの上に俺のトラファルガーにベタベタ触りやがって!」
「だから話し聞けよ。被ってねえし、お前のじゃねえって言ってんだろーが」


ユースタスと呼ばれた男は面倒くさそうにため息をつきながら頭を押さえた。
俺を追いまわしている男とユースタス屋をこっそりと見比べてみたが、ユースタス屋の言うとおり何一つ被っていない。
奴の髪色は赤味が強いがユースタス屋のような鮮やかな赤には程遠いくすんだ色だし、顔だってユースタス屋は一人で歩いていたら引っ切り無しに逆ナンされるのが目に見えるくらいかっこいいし、体格だって奴の無駄な筋肉じゃなくてバランスよく付いた筋肉に長い手足。背も高いしスタイル抜群だ。
うん。何一つ被ってない。
うんうん。と、一人頷いていたらどうやら話が進んでいたらしく、今にも殴り合いが始まりそうだった。
勿論ユースタス屋は面倒くさそうなので奴の一方的な雰囲気だが。


「こうなったらユースタス・キッド!髪色をかけて勝負だ!」
「こいつはもういいのかよ」
「はっ!も、もちろんトラファルガーもかけて!」
「つか勝負とかやんねえし」
「どりゃああぁぁ!」


なんだこいつまじで話し聞かねえ。なんて言いながらユースタス屋はただ眉間に皺を寄せただけだったが、俺は奴がこっちに向かって走ってくるのでどうしていいのか分からず、取りあえずユースタス屋にしがみついたらぎゅっと強く抱え込まれた。


「ぐあっ!」
「かっちゃーん!」


勝負は一瞬だった。
ユースタス屋の長い足が振り上げられ、奴はあっけなく飛んで行き、どこから現れたのか奴の仲間がのびている奴の周りに集まった。かっちゃんって言うのか奴は。
そしてこっちの事など丸無視でかっちゃんかっちゃんと騒ぎはじめた。
そんな奴らにユースタス屋は近付き声を掛ける。


「おい」
「ひぃ!ユ、ユースタス!」
「そいつが起きたら」
「わっ!」


ぐっと逞しい腕に引き寄せられる。


「もうコイツには手ぇ出すなっつっとけ」


いいな?と、鋭い眼光で睨まれた奴の仲間達は声を震わせながら返事をすると、かっちゃんを抱えて逃げるように去っていった。かっちゃん…あの顔でかっちゃん。ぷふ。
ちゃん付けと顔のギャップにニヤついていたら肩にあった温もりが放れていった。


「じゃあな。次は前見て走れよ?」


ポンポンと優しく頭を叩くと、ユースタス屋は歩きだした。
と思ったら立ち止まりこっちを振り返る。


「……何?」
「…え?」
「ん」
「……わっ、あ、えっと、ごめん、なさい…」


顎で指され視線を下げるとそこにはユースタス屋のシャツと掴む俺の手。
え、なんで?
どうやら無意識に握っていたようで急いで手を離した。


「別に謝んなくていーけどよ…アイツの事だったらもう心配しなくていいぜ?」


多分アイツの仲間共が止めるだろーから。そう言いながらユースタス屋は首の後ろに手を置いた。


「あ、あのっ!助けてくれて、ありがとう、ございました」
「どーいたしまして。…トラファルガー、だっけ?」
「え!?あ……はい」
「下の名前は?」
「えと、ロー」
「へぇ。っとやべ、俺もう行くわ」


聞いたわりに興味なさそうに相槌を打たれた時ユースタス屋の携帯が鳴った。
待ち合わせでもしていたのか、俺が引きとめたって言うか巻き込んだので申し訳なくて目を伏せた。


「ごめんなさい、俺のせいで…」
「だから謝んなって」


下げた頭をぐしゃぐしゃと撫でられ、また軽く叩かれた。


「じゃあな、ロー」
「っ?!」


不意に呼ばれた名前に顔を上げると既にユースタス屋は背を向けて歩きだしていて、俺一人、廊下に突っ立っていた。
ユースタス屋が見えなくなると力が抜けたようにズルズルとその場に座りこむ。
なんだこれなんだこれなんだこれ。なんでこんな心臓がうるせえんだ。心拍数が以上だ。いやこれはあれだ。吊り橋効果的なやつだ。そう。そうに違いない。でも、だけど、なんでだろ、顔が


「…あつい」


なかなか玄関に現れない俺を心配してペンギンたちが走って来るまで後3分。





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ローさん敬語似合わないっすね。でもとりあえず初対面なので。私の書くローさんは謎に可愛めでキッドさんは謎に男前になってしまう…補正か?←
脱色ネタが入りまして申し訳ないっす。
続きは誰かからGOサインが出たら、そして思いついたら書きやす。



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