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ヘタレの成長物語

何時からとか如何してとか何処がとか、何一つ明確なものは無くて、気付いたら目で追って話して触れて、あぁ、こいつのこと好きなんだって分かった。
でも、分かったからといって何かアクションを起こしたかというと何もしていない。
ただあいつの笑顔を見れる距離まで近付けた、それだけだ。
まさか自分がこんなにも消極的になるとは思いもよらなかったが、あいつの事に関しては一歩踏み出せないヘタレ野郎に成り下がった事は認めざるを得ない。
そんなわけで、今日もまたあいつの隣になんでもない顔して居座るわけだ。

「おい、聞いてんのか?ユースタス屋」
「あ?…あー聞いてる聞いてる」
「ダウト」
「…再来週の修学旅行の話しだろ?」
「聞いてたんなら返事くらいしろバカスタス」
「あぁ?!だから聞いてるっていっ」
「まあいい、それより…」
「てめぇが聞けよ!」

なんてくだらない会話をしながら教室へと向かう。
この時間が一番好きだ。
教室に入ってしまえばトラファルガーは別の奴らと行動するし、俺もキラーといる方が多い。
だから朝の玄関から教室までの道のりが、唯一トラファルガーの隣を歩ける時間。
そのために態々こいつの登校時間に合わせているなんて知っているのはキラーくらいだろう。
つか本当に

「報われねえなぁオイ」
「違いない」
「っ?!てめっ、キラー!」
「おはよう」
「急に出てくんなよ…はよ」

机に頬杖をついてトラファルガーを見ていた視界が、突然キラーの仮面へと変われば誰でも驚くだろう。
どうしていつもこいつは唐突なのか。
驚いたついでにぶつけた肘をさすりながら挨拶を返す。

「相変わらずだな」
「あ?」
「折角人が気をきかせて15m後ろを歩いてやったというのに…」
「…いたのかよ」
「いた」
「チッ、気付かなかった」
「で、今朝は何を話したんだ?」
「あ?ああ、京都の」
「ああ、再来週の修学旅行の話しか。共に回る約束でもしたのか?」
「…してねえよ」
「はぁ、お前は本当に…」
「だーっ!うるせえ!んな目でみんな!」
「今うるさいのはお前だぞーユースタス」
「あぁ?!んだ…と」
「朝から元気なのはいいがショート始めるから静かになー」
「―っ!」

気付いたら担任が教壇に立っていて、さっきまで話していたキラーの奴は何食わぬ顔で(仮面で見えないが)座っていた。
そうなると必然的に俺が一人で騒いでる奴になっているわけで、注意を受けるのも注目されるのも俺だけなわけだ。
キラーてめえこの野郎なんて思いながら椅子に座りなおすと、小さく肩を震わせながら笑うトラファルガーが視界に入った。
その笑顔に苛立ちが治まったのは言うまでもない。
あいつに感謝しろよキラー。と、隣の仮面男を一睨みしてから窓の外に視線を向けた。



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で、気付けばもう京都に着いた俺は、結局トラファルガーと約束を取り付けることはできず、いつも通りキラーと散策しているわけだが

「………っ!言いたいことがあるなら言えよ!」

そんなろくでなしを見るような目で見るな!
自由行動に移った時から横から感じる視線に耐えきれず、キラーを見る。

「ならば言うが…こんな学生生活で一番といっていいほどのイベントにも関わらず、好きな奴一人も誘えないとは…随分時間もあっただろう?キッド、お前はいつからヘタレ野郎に成り下がったんだ。赤い悪魔の名が廃るぞ?」
「しょうがねぇだろ。あいつの腰巾着共が見計らったように邪魔してきたんだからよ。俺だって何度も…って、そのこっ恥ずかしい名前を出すな!」
「メールなり電話なりあっただろう。文明の利器をもっと有効に使え。…なかなか似合っていると思うがな」
「……」
「キッド?」
「………知らねえ」
「は?」
「あいつのメアドもケー番も知らねえんだよ」
「…まさかお前がここまでヘタレだったとは、気付かなくて悪かったな。俺が今から聞いて…」
「だーーー!やめろやめろ!お前は俺のおかんか!」

今にもトラファルガーを探しに行きそうなキラーを引き止めようと襟首をつかむ。

「む、失礼な奴だな。お前の母親になったつもりはない。そもそも俺は男だ!」
「なんだよ、なんなんだよそのボケ。てめえはつっこむ方だろうが!」
「確かに俺は突っ込む方だが…キッド、悪いがお前はちょっと」
「こっちの台詞だ!っつか何の話ししてんだてめえは!」
「お前らホントになんの話ししてんだ?」

キラーとの謎の会話を繰り広げていた中混ざった声に、つられて後ろを振り向く。

「ト、トトトトラファルガーっ!」
「トが多いぞキッド。それより、丁度いいところに来たなトラファルガー」
「ん?何か用か?キラー屋」
「いやなに、お前のけいたい」
「あ、あああ!」
「っ?!うるせえぞユースタス屋!」

余計な事を口走りそうになったキラーの鳩尾に一発入れ、いきなり叫ぶなと眉間に皺をよせたトラファルガーから引き離す。

「あーっと、そう!てめえの連れはどうしたんだ?」

まさかあの腰巾着共がこいつを一人にするわけがないだろうと、辺りを見回すがそれらしき姿は見えない。

「あ?いるだろその辺に…」
「…いねえけど。なにお前迷子か?」
「な!迷子じゃねえよバカスタス!ただあいつらが、八つ橋がーとか練り切りがーとかうぜえから…」
「見事に甘いもんばっかだな。で、一人でさっさと歩いてきたら迷子になったと」
「だから迷子じゃねえって言ってんだろ!…それに」
「それに?」

ジッとこちらを、というか俺の頭を見つめるトラファルガーに首を傾げる。
何か付いているのかと、髪に軽く指を通す。

「ふむ、そういうことかトラファルガー」
「あ?何がだ?…ってか起きてたのかお前」

何時の間に起きたのか、そもそも気を失っていたのか分からないが、キラーが一人頷きながら視界に入ってきた。

「キッド、お前も大概鈍いな」
「おい」
「つまり、トラファルガーはお前のことを」
「っキラー屋!」
「というよりその目立つ赤髪を見つけて、小腹も空いたけど一人で知らない店に入るのも…お、丁度いいところに金づ…キッドが、となったわけだ。違いない」
「なんでてめえはそんなに自信満々なんだよ。つか金蔓隠せてねえかんな!」
「なんだキッド、俺の推理を疑うのか?」
「推理ってお前…取りあえずてめえが俺のことをどうやって見てるかは分かった」

一つ深く息を吐き、額に手を当てる。
こいつ最近めんどくせえ。

「まあそういう事だキッド」
「どういう事だ」
「俺はまだ腹は減っていないのでな、トラファルガーの財布代わりにでも共に食事をしてくるといい」
「なにお前、なんか俺に怒ってんの?」

財布って…もっとオブラートに包めよ。

「怒ってなどいない。ただ、いい加減一歩進めこのヘタレ野郎とは思っているのでな」

ついうっかり、なんて言いながら額を弾くキラー。
いや確かに怒ってはねえけど、え?苛々してるってことだよなそれ。ってかヘタレ野郎言うな。
だがキラーの言う事も一理あるので、完全に置いてきぼりのトラファルガーに向き直る。

「こいつが言ってんのがあってんなら俺も腹減ったし、あー…飯、行くか?」
「え、あ、えっと……いく」
「ん。じゃあ俺ら飯行くから」
「うむ、承知した」
「何キャラ…まあいいけどよ、終わったら連絡するわ」
「いや、俺のことは気にせず二人で散策すればいい」
「はあ?!おま、何言って…こいつだって連れがいるだろ。今だって絶対こいつのこと探してんぞ」
「いつも共にいるのだから、こんな時くらい別の人間といた方が面白いだろう」
「いやだからお前俺に怒ってんのかって」
「おい」
「あ、悪い」
「腹減った。飯」

本日二度目の放置をくらったトラファルガーに服の裾を引かれたので、トラファルガーを見れば眉間に皺を寄せて、不機嫌そうにこっちを見上げていた。

「あー、取りあえず飯行ってくっから」
「ああ。一人になるようなら連絡してくれ。行ってやらんこともない」
「へーへー。んじゃ行くか」
「ん」

なぜか上から目線のキラーを置いて、トラファルガーと歩きだす。

「これで少しは進展するといいのだが」

キラーの呟きは、二人に届くことなく風にのって消えた。



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ヘタレキッドとボケおかんキラーで。ローさん空気でごめん。全然キドロじゃないっす。てかキラーさん口調分からんのですが…勉強します。


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