Novel | ナノ
保護者と!

教師になって今年で4年目になるトラファルガーとその教え子キラーは、机を挟み向かい合い座っていた。
教室内には二人しかおらず、ただ静寂が広がっていた。
トラファルガーは腕時計を見ると小さくため息をついた。


「……遅いな。時間は確認したのか?」
「すみません。朝にもきちんと言っておいたんですけど…」


だんだんと声が小さくなっていくキラーを尻目にトラファルガーはまたため息をついた。
今日は進路相談も兼ねての三者面談を行う予定なのだが、肝心のキラーの父親が教室に現れないのだ。
既に約束の時間から10分過ぎている。
後5分待って来なかったらまた日を改めようとキラーに告げようとした時、勢いよく教室のドアが開いた。
その音に驚いた二人は勢いよくそちらに顔を向けた。
入口に立っている男は膝に手を付き、肩で息をしながら言葉を紡いだ。


「っお、おくれっ…すみ…せっ、はぁっ」
「…大丈夫ですか?」


あまりに息が切れていたのでトラファルガーが声を掛けると、男は深く息を吸って整えてから顔をあげた。


「はぁっ……遅れてしまった上にお見苦しいところをお見せしまして、申し訳ございません。キラーの父親のユースタス・キッドと申します」


ユースタスは綺麗に頭を下げるとまっすぐにトラファルガーを見つめた。
その赤い瞳にトラファルガーの心拍数が一瞬乱れた。


「い、いえ。この度はご都合をつけていただき、ありがとうございました」


今のは何だと内心首をかしげながらトラファルガーはユースタスを椅子に座るよう誘導した。
ユースタスはそれに従い椅子に座ると、隣に座っているキラーの頭を軽く撫ぜた。
撫でられたキラーが下を向いて小さく笑うのを見届け、トラファルガーは本題に入るべく話を進めていった。


「……では、以上で面談は終了とさせていただきますが、何か他にございますか?」
「いえ、私の方は特に。キラー、お前はなんかあるか?」
「…ない」
「でしたらこれで終了ということで。本日は態々ありがとうございました」
「こちらこそご迷惑をおかけいたしまして、これからも息子をよろしくお願いします」
「い、いえ!こちらこそ、よろしくお願いいたします」


この後に面談は無いのでトラファルガーが机の位置を直そうとすると、ユースタスもそれに習って机を直し始めた。
トラファルガーはそれを慌てて止めようとしたが、ユースタスはこれくらいはやらせてくれと聞く耳を持たなかった。
どうすればいいのか分からないでいるとキラーがやらせておけばいいと言いながら窓の施錠を始めたので、トラファルガーも渋々と窓の施錠をした。
三人そろって教室を出てドアのカギを掛けると、トラファルガーは再びユースタスに頭を下げた。


「片付けまで手伝っていただいて…」
「…先生はまだお仕事が?」
「?今日はもう帰るだけですが」
「車ですか?」
「いえ、今車検中でして」
「なら送りますよ。車できたんで」
「え」
「え?」


ユースタスの言葉に動きを止めたトラファルガーを見てユースタスは首を傾げた。
そんな二人を見てキラーはため息をつき、トラファルガーに近付いた。


「先生、よろしければ乗っていってください。もとはといえば、遅れた父が悪いので」
「え、でも…」
「なんでしたら夕食もいかがですか?今日は三日前から煮込んだビーフシチューです。ああ見えても父は料理上手ですよ」
「いや、さすがにそれは」
「といっても、既に決定事項ですけど。ほら」
「え?」


キラーの指差す方を見れば、そこにはすでに車のキーを指にかけ、どこか機嫌良さそうに玄関へと歩いていくユースタスの後ろ姿があった。


「そういうことですので。荷物を持って駐車場に来てください」
「おい、ちょ……まじかよ」


トラファルガーの制止の声も空しく、キラーはユースタスを追っていってしまった。
教師が生徒の保護者に送ってもらう上に夕食までお世話になるってどうなんだと頭を抱えてため息をついた。
しかしこれはもう行く以外に選択肢が無いので、これ以上待たせないように急いで職員室に鞄をとりに行った。



-------------------------------



「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」


トラファルガーは最寄り駅まで送ってもらうだけにしようと意気込んで駐車場に向かったが、結局二人のペースにのまれ、夕食まで美味しく頂いてしまった事実に心中で肩を落とした。
キラーに少食だと聞いていたのか二人よりも少なく盛られていたが、それでもトラファルガーには多く思えた。
そんなトラファルガーをみてユースタスは残ったら自分が食べるから無理して食べるなと笑み、それに遠慮がちに頷きながらも食事を始めた。
しかしその心配は杞憂であった。
今まで食べたビーフシチューの中で断トツに美味しかったのだ。
トラファルガーは綺麗に完食した自身に驚愕した。
そんなトラファルガーを見たユースタスは口角を緩く上げ、嬉しそうに笑った。


「それではそろそろ失礼を…」


食器をシンクに運び洗おうとしたのをユースタスに止められ、手持無沙汰になったトラファルガーはゆっくりと腰をあげた。


「送ります」
「いえ、そんな」
「でも先生帰り道分かります?」
「あ」


そうだった、とトラファルガーの顔は言っていた。
ここはユースタスの家で、此処までくる間は助手席に座っていたせいか妙に緊張して道なんてまるで覚えていないことに気付いたのだ。
そんなトラファルガーをしっかりしていそうでどこか抜けている奴だと喉の奥で小さくユースタスは笑った。


「じゃあキラー、先生送ってくっから」


そう言うとユースタスは来る時のようにカギを持って玄関へと行ってしまった。
それを見てキラーは苦笑をうかべ、トラファルガーを玄関まで送った。


「先生、今日はありがとうございました」
「いや、なんか俺の方こそ…じゃあまた明日な」
「はい。お気をつけて。おやすみなさい」
「おやすみ」


玄関のドアが閉まるのを確認すると、すでに家の前に少し前に乗ったユースタスの車が停まっていた。


「どうぞ」
「あ、りがとうございます」


車に近付くと助手席側のドアにユースタスが立っていて向かってくるトラファルガーに気付くと、行きと同じようにドアを開けエスコートした。
まるで女にする様な行為にトラファルガーは戸惑いつつも、本日二回目なので平常心を装って車内に乗り込んだ。
行きはあまりに突然過ぎてしばし固まった事は記憶に新しい。


「先生の住所入れてもらっていいですか?」
「え!あ、ああ…はい」


あれが当然の反応なのだがそれでも恥ずかしかったと一人悶々としていたら、いつの間にか運転席に乗っていたユースタスに声を掛けられ、つい大きな声が出た。
それをごまかすようにユースタスに指されたカーナビに自身の住所を入力した。
データが読み取られるのを確認するとユースタスはアクセルを踏み、車を発進させた。

カーナビの指示音とタイヤの滑る音、エンジン音、エアコンの音だけが車内に響いていた。
なんとなく気まずさを感じたトラファルガーは取りあえず何回目かのお礼を言った。


「今日は本当に、いろいろとありがとうございました」
「こちらこそいつもキラーがお世話になっていますので」
「いえそんな、キラー、くんはとても落ち着いているので」
「……あいつは」
「え?」
「あいつは、クラスにちゃんと溶け込めてますか?」
「…」
「先生の仰る通りあいつは同学年の子供より落ち着いていると思いますが、その…仲の良い友人とか、クラスで浮いてたりしてませんかね」


車内は暗くはっきりとは見えなっかったが、対向車のライトで一瞬見えたユースタスは父親の顔をしてどこか不安そうだった。


「その!キラーくんは落ち着いていますが、うちのクラスは騒がしいのが多いので!あの、お兄さんの様な感じで頼られてるし!それに、よくバジル屋…バジル・ホーキンスという子たちと一緒にいるからユースタス屋が不安に思う事は何も……っ!す、すみませんっ」


ユースタスの不安そうな表情が気になってトラファルガーは助手席から身を乗り出してキラーの学校生活を話した。
焦りすぎて後半は敬語が抜けて素になっていたが。
そんなトラファルガーにまさかそこまで勢いよく来られるとは思っていなかったユースタスは目を瞬かせた。
そしてユースタスのそんな表情が見えるほど近付いていたことに気付いたトラファルガーは、慌てて助手席のシートに身を戻した。先ほどよりもドア側に。
恥ずかしい恥ずかしいとトラファルガーは両手で顔を隠した。
すると静かな車内に押し殺したような笑い声が聞こえてきたのでちらりと声のする方を見ると、ユースタスがハンドルに頭をつけて肩を震わせていた。
いつの間にか赤信号で車は停まっていたようだ。


「……クッ」
「…笑いすぎですけど」
「いや、くくっ…」
「ユースタスさん!」
「くっ…ああ、すみませ……クハッ」
「〜〜〜っ!」
「や、ほんと、すみません。先生のギャップに驚いてしまって」
「う、さっきのは、その…」
「普通に話してもらっていいですよ。敬語使われるの苦手なんで」
「え、でも」
「それに、さっきの先生の方が俺も話しやすいので」
「なら、その…ユースタスさ、屋も普通に話してくださ…せよ」
「わかった……クッ」
「っユースタス屋!」
「悪ぃ悪ぃ…っと、ここか?」
「え?あ、ああ」


マンションの前に車が停められ、役割を果たしたカーナビが静かになる。
シートベルトを外してドアを開けようとすると、いつの間に外に出ていたのかユースタスが助手席のドアを開けた。


「…どうした?」
「な、なんでもねえ!…どうも」
「どーいたしまして」


トラファルガーが降りるのを確認してから助手席のドアを閉め、運転席へと戻る。
シートベルトを締めるとトラファルガーが近付いてきたので窓を開けた。


「あー、その…送ってくれてアリガトウ」
「こっちこそこんな時間まで引きとめて悪かったな」
「いや、ビーフシチュー美味かったし」
「口にあったなら良かった。なんならまた食いに来いよ」
「それは、な…教師と保護者だし」
「あ?ああ、そうか。なら…ほれ」


教師が教え子の保護者に夕食をごちそうになるのはいかがなものかと言葉を濁すと、ユースタスは一枚の紙をトラファルガーに手渡した。


「…これ」
「俺の番号な。これで俺とお前は友人ってことで…なんて、ダメか?」
「…フフフッ、変な奴」
「うるせえ。取りあえず渡したから、後は好きにしろ…っと、そろそろお前も中入れ」
「ああ、好きにさせてもらう。じゃあな、ユースタス屋」
「じゃあな…おやすみ、トラファルガー」
「おやす、み」


ユースタスは口角を緩く上げると、窓を閉めて車を発進させた。
そしてトラファルガーもユースタスの車を見送ると自身のマンションへと入って行った。
ユースタスの携帯に着信が入るのは、また別の話し。





----------------------------

と、言うわけで保護者×教師でした。全然いちゃいちゃしてないけどキドロと言い張る。まだ二人の間に恋愛感情とか芽生えてないけどキドロと言い張る。でも敬語で話してると、これってキドロじゃなくてもいんじゃね的なテンションになったuでした。
トラファルガー:26歳/ユースタス:32歳/キラー:15歳の設定…今のとこは。
そしてユースタスはオールバックだといい!
基本ロー視点で書く予定なのでタイトルが保護者と!
キッド視点で教師と!もいいかと思ったんだけど…皆様どっちがお好みで?
とりあえず今回は第三者視点。




- 3 -

[戻る]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -