Novel | ナノ
お酒に夢中

ログポースが指したこの島に到着したのはつい先ほどの事で、船を港に着けて感じたのはこの島は非常に活気が良く海賊に対して特に敵意や畏れが無い事だった。
それが分かるや否やユースタスは右腕といえる男すらも連れず一人、街をだらだらと歩いていたのだ。
活気がいいとは言ったもののいささか騒がしすぎる街の大通りにはユースタスの好む様な店は見当たらず、仕方がなく昼から開いてそうな酒屋を探すことにした。

大通りから一つ向こうの通りに向かう途中に小汚く小さいがドアにopenと書かれた札が下がっている酒屋を見つけた。
ぶっちゃけ酒が飲めればいいユースタスは特に外観を気にすることなく店のドアを開けた。
ドアに付いていたであろうベルがこの店には不釣り合いなくらい品の良い音をたててユースタスの来店を知らせた。

店の中に入ってみるとそこは思った以上に奥行きがあり、外観からは想像もつかないどこか品のある内装となっていた。
海賊の、しかも男一人で入るにはいささか不釣り合いな気もしたが、昼間から酒を飲むやつがいないのか客はユースタスだけだったので気にせずカウンターの一番端に座った。
仲間と飲む時はソファに座り浴びるように酒を飲むが一人の時は中央にいるよりも端で大人しく酒を飲む。
一人の時間を感じられるこの空間がユースタスは気にいっていたのだ。

海賊であり三億を超える男だと分かっていないのか、店主は人の良さそうな笑みを浮かべながらボトルとグラスをユースタスの前に置いた。
ユースタスはラベルを見ることもなくグラスに注ぎ、口をつけた。


「…こいつは」


懐かしい味に店主へと視線を移すと、店主は先ほどと同じ顔で笑っていた。


「くくっ…てっきり俺のことを知らねえんだと思ってたが、違ったみてえだな」
「この島はどの航路を通っても必ずログポースが示す島ですからね。貴方の事もよく耳にしますよ―――ユースタス・C・キッド、さん」
「俺もちったぁ名が売れてるってことかぁ?それにしても、よくあったなコレ」


店主とは違い、ニヤニヤと笑みを浮かべながらユースタスはボトルを持った。


「ここらじゃあまり手に入らないでしょうがね。南の海には知り合いがいるもので、年に何度か送ってもらうんですよ」
「そいつはいい。俺はもう何年も飲んでなかったから妙な気分だ」
「思い出しますかな、故郷を」
「そうだな―――いや、思い出すほどいい記憶はねえな。ただ」
「不思議な懐かしさ、温かさがある。ですか?」
「くくっ、海賊にゃいらねえモンだな」
「そういうものですか?」
「そういうもんだ」


これ以上はもう終わりだと言う様にユースタスは空になったグラスに酒を注いだ。
すると丁度よく来客を知らせるベルが品よく鳴り、店主はそちらへと移動して行った。


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気が付けばもう日も暮れており、店内もにぎやかになってきた。
そろそろ船へ戻ろうかと思ったその時、ひどく大きな音をたてて店のドアが開いた。
ちらりとドアを見るとガラの悪い男達がぞろぞろとやってきた。
海賊のようだがユースタスは男達の顔も名前も記憶に無いので小物だと認識すると、またグラスに口をつけた。


「ここに二億の賞金首がいるって…よぉ、みつけたぜトラファルガー・ロー!」


船長と思われる男がトラファルガーの座っている席のテーブルを蹴りあげ、無駄にでかい声で奴の名を口にした。
ユースタスは自身がいかに酒に夢中だったのかを知ると深くため息をついた。
まさか今の今までトラファルガーの存在に気付かなかったとは。
キラーにばれたらどやされそうだと考えながら、カウンターにいるユースタスとは対角線上になるソファに座るトラファルガーに目を向けた。
トラファルガーはどこか偉そうに足を組みなおすと、目の前で喚いている男など視界に入っていないかのように隣に座る彼の船員達に声を掛けていた。
その声はユースタスにまで届き、明らかに相手を煽っていたのが丸分かりだった。


「おいペンギン、酒が消えた」
「まだ飲む気ですかアンタは」
「アァ?そんな飲んでねえだろ。おい店主!さっきのもう一本」
「え〜、キャプテンまだ帰らないの〜?オレおなか減ったよ」
「ならなんか食うもん頼め」
「え!いいの?!じゃあね〜」
「ベポまで…」
「てっめえら!俺様を無視するんじゃねえ!!」


ハートの海賊団に完全無視されていた男は苛立ちがピークに来たのか、今度は隣のテーブルを蹴りあげた。


「…なあ今俺様って言わなかったか?」
「言いましたね。バカがうつるんで離れてください」
「今時ないよね。キャプテン近寄っちゃダメだよ?」
「〜〜〜っ!!う、うるせえっ!」
「うるせえのはてめえだカス」


トラファルガーはソファから立ち上がると喚く男の横を通り過ぎ、我関せずといった風にグラスを傾けている男の膝に座った。


「…おい」
「俺がいるのにも気付かないほど酔ってんのか?ユースタス屋」
「てめえのせいで台無しだっての。邪魔だ降りろ」
「俺のせいじゃねーし。な、ソレちょーだい」


トラファルガーはユースタスの首に腕を巻きつけながら、折角のいい気分が台無しにされたと眉間に皺を寄せるユースタスを見つめた。


「てめえの客だろうが!さっさと殺ってとっととうせろ」
「冷てーの………三か月ぶりなのに」
「…おい、トラファ」
「バカにしやがってええええ!!」


完全に存在を忘れさられていた男は頭に血が上った為か、なんの策もなく二人に向かって引き金を引いた。
しかしそれは二人に当たることなく、10cm程手前で不自然に動きを止めた。


「なっ!ま、まさか、その赤髪は…」
「今更気付いたのかぁ?…で?合計五億とまだ遊びてえって?」
「う、うああっ……ぐっ!」
「ま、もう遅えけど」


ユースタスの能力によって止められた銃丸は同様にユースタスの能力で男の胸を貫通していった。
そもそもトラファルガーに当たってもユースタス自身には当たらないはずなのに、うざそうな顔をしながらちゃんと能力を使って止めてくれたユースタスにトラファルガーの気分は上昇した。
もちろん、顔にはニヤニヤとした笑みを浮かべるだけに留めたが。


「フフッ、そんなに俺が好きかぁ?ユースタス屋」
「うぜえな、ニヤニヤしてんじゃねえよ。ただの条件反射だ」
「ふーん。…あ、な〜あ、ソレちょーだい」
「てめえで頼め。おい、金は此処に置いとくぞ」


ユースタスはベタベタとくっ付いてくるトラファルガーを無理やり離すと、明らかに過剰な額を置いて立ちあがった。


「こんなには頂けませんよ!」
「黙ってもらっとけ。ソイツが飲めた礼だ」
「それにしても…あ、でしたらコレを」


店主は店の奥から先ほどまでユースタスが飲んでいたボトルと同じものをユースタスに渡した。


「あ?…いいのか?」
「勿論です。私はまた送ってもらうので」
「なら貰っていく」
「はい、またのお越しを」


店主はまた軟らかく笑うと他の客のところへ行った。
ユースタスは貰ったボトルを持ち、未だに座ったまま不貞腐れているトラファルガーを見て仕方がないとため息をついた。


「おい」
「…」
「トラファルガー」
「…」
「チッ…トラファルガー」
「っ!なにす…んっ」


返事のないトラファルガーに苛立ったユースタスはトラファルガーの顎を掴むと無理やり上を向かせ、唇を塞いだ。


「ん、んぅ…んっ…はぁっ」


深い口付けからトラファルガーの声が漏れる。
舌を絡めとられ、上顎を撫でられ、歯列をなぞる様に舐められ、咥内はもうどちらのものか分からないほどぐちゃぐちゃにとろけていた。
最後に強く舌を吸われ、音をたてて離れていった。
二人をつなぐ銀糸がぷつりと途切れるのを見送ると、ユースタスは自分の濡れた唇を舌で舐めた。
そして未だ余韻に浸っているトラファルガーの濡れた唇を指でなぞると、耳に唇を寄せた。


「もっと味わいたきゃついてこい」
「あっ…」


耳に軽く歯をたてられ、ぴくりと反応したトラファルガーをそのままに、ユースタスは一人店を出た。
後ろから追ってくるであろう男を想像して笑みを浮かべながら。




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って!なんかローさんとキッドさん全然絡まないんだけど!なんでだ←
いやむしろパラレルで店主をローさんにしようかとも思ったんですけども、ね。
受溺愛のキッドさんも好きなんですけど、今回はちょっとツンツン気味に…なってた…か、な?
後、キスの描写とかもっと生々しいのがいいのかしら?今後エロも書いていこうかとは思ってるんだけど…うーん、勉強します。


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