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赤の苦労

「キッドォォオオ!!」


後ろから自分の名を呼びながら物凄い勢いで走ってくるソレをぶつかる手前で横にずれて回避した。
もちろんキッドが避けたため、走ってきたソレ―――ルフィは地面と仲良くなることになった。
ゴム人間なので痛くも痒くもないようだが。


「なんで避けたんだよ!」
「普通避けるわ!てめえ俺を殺す気か!」
「キッドはあれくらいじゃ死なねえだろ?」
「決まってんだろ!ってそういう問題じゃねえ!」
「ん?そぉかあ?」
「んっとに、てめえと話すと疲れる。で?」
「んぁ??」
「てめえ…用があったからあんな勢いで来たんだろうが!」
「用?そんなもんねーぞ?」


すっとぼけるルフィにキッドの眉間にさらにシワがよった。


「はぁ?!ならなんだってんだ!」
「キッドが見えたから走ってきただけだ!」
「威張るな…っとに、おい。保護者どこだ保護者」
「知らねー。島着いてすぐきたからな!」
「だから威張るな。はぁ…おら、行くぞ」

腰に手を当てて胸を張り威張るルフィに背を向ける。


「肉か?!」
「ちげえよ!てめえんとこの船まで送ってやっから」
「えー!肉食いてえよ!なあキッド〜!肉!」
「……」
「肉〜肉〜肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉…」
「…っだあ!もーうるせえ!分かったから黙れ!」
「ホントか?!じゃあ行こーぜ肉屋!」
「ちょ、おい!引っ張んな!」


ルフィに連れられ肉屋――基肉が食べられる飲食店へと足を進める。
隙を見て逃げたかったが逃がさないとでもいうようにルフィに腕を絡み組まれ、逃げることは無理そうだった。
そうそうに抵抗をやめ諦めたキッドはだらだらとルフィに引っ張られながら歩いていた。
すると、目の前から見慣れたツナギの集団が来るのが見えた。
一番先頭を歩いているのはツナギではないが、よく、非常によく知っているやつらだ。
これからの事が安易に想像できてキッドは頭を抱えたくなった。
二つ言わせてもらえば、今ここ場にキッドを助けてくれる仲間がいないことと、キラーがいなくて良かったと結構本気で思っている。
頼むから気付かないでその角を曲がってくれないだろうかとキッドは一人願ったがそんな上手くいくわけがないのだ。


「ん?あれトラ男じゃねーか?おーい!トラ男ー!」
「ば、バカやめろ…」


空気の読めないトラブルメーカーが隣にいるのだから。
ルフィの声に気付いたトラ男―――ローは、二人を視界に入れるやいなや、足早に二人のもとにやってきた。


「麦わら屋にユースタス屋…お前らなにやってんだ?」
「ニシシッ!キッドに肉奢ってもらうんだ!」
「ほぉ、ユースタス屋になあ」
「おう!トラ男はなにしてたんだ?」
「この島は特になんもねえが栄えてるみたいだからちょっと散策をな」
「散歩か!いいなそれ!キッド、俺たちも肉食ったら行こーぜ散歩!」


それどころではない。あと散策と散歩じゃ意味が違う。なんてツッコミも今のキッドには出来なかった。
なぜなら、にっこりと笑みを浮かべて見上げてくるルフィと、口元は緩く曲線を描いているが目が全く笑ってないローとその後ろで親の仇を見るかのようにギラギラと睨み付けてくるツナギ集団。
胃が痛い。
もうなんでもいいから船に帰りたくて仕方がない。


「…ユースタス屋」
「……っおい?!」


どうこの場を切り抜けようかと考えていたら、するりとローの細い腕がルフィとは逆腕に絡みついてきた。


「俺もなんか腹減った」
「は?」
「麦わら屋だけに奢るなんてずりぃ。俺も」
「いやそもそも麦わらに奢るなんて一言も…」
「キッド…」
「うっ!」


ジッと若干の上目遣いで見つめられ、不覚にもくらっときた。
貢いでもいいかもなんて思った事がキラーにバレたらそれこそ二度と一人で出歩けなくなるだろう。


「むう〜。おいトラ男!キッドは俺と肉食うんだ!」
「別に俺は麦わら屋がいたっていいぜ?ま、麦わら屋だけテーブルは別だけどな」
「な!俺が先にキッドと約束したんだからキッドと食べんのは俺だ!」
「フンッ、それを決めるのは麦わら屋じゃねえだろ?なあユースタス屋、俺と美味い酒飲もうぜ?」
「キッド!俺と肉食うよな?!」


どっちでもいい。
そもそもなんでこいつらは会うたび会うたびこの調子なのだろうか。
なぜそこで張り合う。
もう金出してやるから二人で行ってくれ…。
なんて言えるわけもなく、未だに終わらない二人の会話にキッドは二人にバレないくらい小さくため息をついた。
残念なことに二人の思いはキッドに届いていなかった。
理由は知らないがなんかの因縁によって張り合っている二人の間によく巻き込まれる俺可哀そう。
キッドの思想ではそうなっていた。
そんなことを考えながら意識を遠くへ飛ばしていたうちになんだか二人の会話はどんどん主旨がずれていった。


「キッドはなあ!すっげえ甘いもん大好きなんだぞ!サンジに頼んで生クリーム追加してもらうくらいに!」
「ハンッ、そんなの知ってる。ユースタス屋はな、化粧品にすげえ拘ってんだぜ?口紅とマニキュアだけじゃねえ。肌が弱いからハンドクリームも拘りぬいた最高のもんを使ってんだ!」
「な!それにキッドはなんだかんだ言って子供に優しいんだぞ!この間の島で子供がぶつかってきて三段アイス服に付けられたのに、五段アイス買ってやったんだぞ!」
「っ!ユースタス屋はガキだけじゃなくて女にも優しいんだぜ?前の島で路地裏で襲われそうになってた女を助けて医者まで連れてってやったんだ」


その後ユースタス屋にベタベタ近付くからバラしてやったがな。と不敵に笑うローにお前の仕業かとキッドはうなだれる。
まあ確かに鬱陶しかったのでいいのだが。
それよりも


「て、め、え、ら、は、揃いも揃ってなんの話してやがる!!」


恥ずかしいからやめてくれ。
極悪非道の名で売ってんだよ。相棒は殺戮武人なんて名までついてんだよ。
イメージが、俺のイメージが…
そんなキッドの心情など露知らず、ローとルフィはキッドを見上げた。


「俺の方がキッドのこと知ってるだろ?」
「麦わら屋邪魔だ引っ込んでろ。俺のが知ってるに決まってるよなあ?ユースタス屋」
「な!邪魔なのはトラ男だろ?!キッドから離れろよ!」
「俺に命令するな消すぞ」
「なんだやるかぁ?! ゴムゴムの〜」
「やってやろうじゃねえか。room…」
「ちょ、おいやめ」
「キッド!」


戦闘態勢をとった二人を止めようと(なぜなら間に挟まれているからだ。このまま行くと攻撃を受けるのは俺だ)した時、後ろから聞きなれた声に名前を呼ばれた。
ローとルフィもその声に反応したのか三人そろって振り向いた。


「…キラー」


頼もしい相棒だ…普段は。
だが今はまずい。何がまずいって、


「勝手に出歩くなと言っただろう。全く仕方ない船長だな」
「あー…悪ぃ」
「でもこんなところで何していたんだ?昼は食べたのか?」
「いや、まだ…」
「なら早く行こう。さっきこの島の奴に美味い店をきいたんだ」
「それなんだけどよ、アイツらが」
「アイツら?…ああ、いたのかトラファルガー、麦わら」
「随分と白々しいなキラー屋。その使えねえ眼くり抜いてやろうか」
「おめえ相変わらず嫌味な奴だな!嫌いだ」
「フッ、別に貴様らに嫌われたところで痛くも痒くもない」


こうなるからだ。
何が気にいらないのか、キラーはこの二人に対してあたりが強い。
いちいち喧嘩腰で収拾がつかなくなる。
もうこのまま一人で酒屋に行きたい。
終わらない会話にキッドは一人肩を落とした。



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ル→ローが多いのであえてのキド←ル。キッドさん総攻的な感じで。
もうルーキーたちに取り合われればいいと思う!しかしいまいち好意に気付かない鈍感キッドさん押しで。


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