久しぶりに私と靖友どちらにも講義や用事なんかが入ってない休みの日、何処に行くわけでもなく家の中で靖友とゆっくり過ごそうと思っていた。
けれど一切構わないで雑誌に夢中ってどういうことなんだろう。

「靖友ー」
「ンー・・・」
「・・・靖友さーん」
「アー・・・?」
「靖くーん」
「おー・・・」
「・・・やすすー」
「・・・」

ソファにその身体を収めて雑誌を黙々と読む靖友に声を掛けても返ってくるのは全て生返事で最終的には無視ときた。
いや、確かにね?今日は何処も行かなくて良いよと言ったし?家でのんびりしようとも言ったけど?こんなに構われないとは全く以て思いもしなかったよ私は。

「ねぇ」
「ッセ!んだヨ!さっきから!」
「もうちょっと構ってよ、せっかくの休みなんですけど」
「ハァ?おめぇが別に良いっつったんだろうがヨ」
「いやまぁ、確かに言いましたけども、言いましたけどもね?」
「ケドォ?」
「さすがに?一緒にいて?全く構ってくれないのもどうかなぁーって」

靖友のお腹辺りに頭を乗せてその顔を見る。
その顔はとても不機嫌そうに顰められていて眉間の皺も深いし口なんか歯茎見えている。
靖友は黙ってればかっこいいのに表情の動きが激しすぎると思うの。
しばらく見つめあっていると雑誌を掴んでいた彼の片手が離れて私に伸びてくる。
お、やっと構う気になったか?

「アー、わかったからァ。後で構ってやっから少し大人しくしててくんねェ?」

ぐしゃぐしゃと前髪の辺りを乱暴に撫でて素っ気なくそう言うと靖友はまた雑誌に目を戻した。
くそぅ・・・

「ぅぐ・・・っ!!いっ・・・」

あくまでも雑誌を優先させる靖友に抗議するようにお腹に乗せていた頭を少し持ち上げてドスリ再び下ろす。
思いもしなかったであろう行動に靖友は小さく呻くと目を吊り上げてこちらをギッと睨んできた。
さすが元ヤンであるからにガンの付け方がめちゃくちゃ怖い・・・

「ッテェな!!オイ!ななこテメェ何してくれてんだボケナスがァ!!」
「だってぇー」
「だってもクソもねェよ!大体さっきからなんなんだヨ!?」

普段から大きい声を更に荒げてくる靖友にあなたが構ってくれないからですけどと思いつつ謝る。

「ごーめーんー、でもさぁ、雑誌ばっかとか私つまんないんですけど」
「構ってチャンかヨ、ウッゼ」
「うざくはないな!」
「ハッ、東堂のマネかヨ」
「そうだよマネだよ。ねーぇ、構ってよ、つかやっぱりどっか行こ」

このままではダメだと思い乗せていた頭を起こして立ち上がる。
そして相変わらず雑誌にしか興味の無い靖友の腕を引きながら出掛けようと誘うもその細い身体は全く動きやしない。
こいつ意外と重いんだよな・・・

「ほーらー靖友!」
「ッゼ、引っ張んな!つーかもう暗れェだろうが!!」
「良いじゃん!散歩しよっ」
「行かねェって!・・・だー!もう!!」

嫌そうな顔をする靖友の腕をグイグイ引っ張ってみるけど微動だにしない。
それでもしつこくしていると急に靖友の上半身が起き上がって靖友の腕を掴んでいた手を掴まれてそのまま引き寄せられる。

「うっわ!何すんの靖友、危ない!」
「ウッセ!テメェが構えっつったんだろ、構ってやるから騒ぐなヨ」
「ちょ、ちょっと!待った!この手は何!」

もそもそと腰元を触る手を止めようとも腕はガッチリ握られていて動かせないし何よりソファの上じゃ尚更動きづらい。
それでもジタジタと暴れていると不意に視界が反転して、ギラギラとした正しく野獣という言葉が相応しい靖友の表情とその後ろに見える見馴れた部屋の天井。

「ッセ!暴れんなバァカ!」
「無理!やだ!」
「アーアー聞こえねェなァ」
「ちょっと靖友!明日1限目から講義あるんだけど!」
「ハッ、構えっつったのはおめぇだぜェ、ななこチャァン?」

一切聞く耳を持たずに首筋に顔を埋めてくる靖友にこうなったらもう無理だ、何も無い限り私では靖友を止められないと諦めて抵抗するのを止めて目を閉じると靖友がクツリと低く喉を鳴らした。
そしてその後どうなったかなんて言うまでもない。





「んん・・・・・・?あっ!?」

翌朝目を覚ますと1限目の講義は既に始まっていて今から行っても終わるか終わらないかくらいの時間になっていた。

「ちょっと!靖友!バカ!起きてよ時間!」
「ンァ・・・セェな・・・もう少し寝かせろヨ・・・」
「だから時間!あんた2限目からだったんじゃないの!?あんたの方が遠いんだからさっさと起きなさいよ!!」
「ア・・・?・・・!?ヤッベ!もっと早く起こせヨボケナスゥ!!」
「あんたのせいでしょ!?」

朝から近所迷惑なんじゃないかってくらいに二人で騒ぎながら準備を進める。
昨日致してしまった名残を流すために靖友を先にも風呂へ送り込む、あいつは風呂の時間が二分と烏の行水なためにこういうときとても楽で助かる。
早くも出てきた靖友と入れ替わるように浴室へ飛び込んでぱっぱっと洗うだけ洗ってバスタオルを身体に巻き付けて出ると靖友は既に準備を終えていた。

「靖友もう行くー?」
「アア、おめぇも早く行けヨ」
「はいはーい」
「あと早く服着てこい」
「うーい」
「ンじゃ、またあとでネ」
「おっけー、いってらっしゃーい」

わさわさと身体を拭いてその辺にあったトレーナーを着ながら靖友を見送るために玄関に向かうとドアに手を掛けながこちらを見る靖友がいた。

「どうしたの?」
「アー・・・忘れモン」
「え、うそ、何?取ってくるよ?」
「や、いい」
「え、じゃあ何・・・っ!?」
「・・・・・・じゃあ、行ってくんヨ」

靖友の言葉に踵を返して部屋に戻ろうとした瞬間手首を掴まれてグッと引っ張られたと思ったら唇に少しだけ熱を感じてすぐに離された。
「今日は早く帰るからァ」と素早く玄関を開けて出ていく靖友の背中を思いもよらない行動で間抜けになった表情で見送る。

「・・・」

それでも少しだけ見えた靖友の耳は赤くて滅多にやらないことに照れている事実を感じてやっぱり靖友のことが好きだと実感した。

「・・・あーっ、ヤバ、私も早く行かなきゃ・・・」

今日はサークルも友達の誘いも全部断って帰ろう、そしたら靖友に一番におかえりって言ってキスをしてやるんだ。