誓約

▼Chapter11
(__I promise you,so you promise me not to die.)


『あーあ、服が汚れちゃった』
オークの銃撃を確かに心臓に受けながらも、それでも少女がダメージを受ける気配は全くなかった。
『仮にあたしが死ぬことがあるとして、その方法をあんたみたいな愚かな人間が見つけられると思ってんの?あたしは契約の時、相応のリスクを負った!そんな覚悟を持ったこのあたしが!あんたみたいな無力で弱い奴に負けるわけないだろぉおお!?』
少女の目がカッと輝き、ふらふらと立ち上がる。そしてそのまま右の拳を振り上げた。
「くっ!」
オークはとっさに両腕でそれをガードした。が、
『残念☆こっちが本命でしたァ!!』
悪魔の左腕が無防備なオークの腹を狙う。今度こそ、オークはそれをもろにくらった。
硬化された悪魔の腕は、容易にオークの腹を突き抜けた。腹に穴が開いたオークはそのまま飛ばされ、石畳に投げ出される。灰色の石畳に、赤い水たまりがじくじくと広がった。
口から血を吐き出してもがくオークを見て、悪魔は満足げな笑みを浮かべる。恍惚。自分の手で相手を踏みにじることへの、心の底から突き上げる喜び。
突如、少女の後頭部から鈍い打撃音がしてオークを眺めていた彼女がバランスを崩す。よろめく彼女の隙を見逃すことなくシーカーが背後から回し蹴り、少女をオークのすぐ隣の石畳に叩きつけてその頭を踏みつける。
「……いい加減にしてください。これ以上その人をコケにするのは許しませんよ」
自らの唯一の武器を投具として使用したことで、己の身一つ丸腰となったシーカーが静かに、しかし強い意志を込めた声で言った。
「彼を罵倒するのは僕の――僕と、セルシュだけの特権、勘違いしないで欲しいですね。そして、オークが弱いのは頭だけだということも」
シーカーは腹を押さえ、膝を立てて苦しそうにぜえぜえと呼吸するオークにその右手を差し出す。
「シー、カー……、お前な」
この期に及んで憎まれ口を叩くシーカーに半ば呆れながらも、オークは自身の持つ二つの拳銃のうちの一つを手渡した。
「事実でしょう、銃撃を与えても効果が無いことはもう分かり切っていることです。もう少し他の方法を考えていただきたいものですね」
「……じゃあ、どーしろって言」
『キャハハハハハ!!!』
「おっと」
シーカーに押さえつけられるがままになっていた少女が彼の足をはらい、それを避けて宙に浮いたシーカー目がけて蹴りを放つ。間一髪でなんとかかわしたシーカーだったが、悪魔の猛攻は続く。その行動の動機は至極単純。「シーカーを喰らう」。ただそれだけだった。
シーカーは感情の無い眼でひたすら攻撃をよけることに徹していた。隙を見て自分しか見ていない哀れな悪魔に向かって一発、弾を撃つ。額に直撃した銃弾の衝撃で悪魔が顔をのけ反らせる。
『……だーかーらー。効かないって言ってんだろおおおおおお!?』
額から血を流しながらも狂気の瞳を爛々と輝かせる悪魔。しかし彼女が顔を上げた時、そこにシーカーの姿は無かった。
『……ッ!何処に!!?』
「ここですよ」
少女がまさに鬼の形相で振り返る。オークもチカチカと点滅する視界の中で、予想だにしなかった相棒の行動を不審に思いながらも、なんとか視線を声のした方へ動かした。
シーカーは少女とオークから少し距離を取った、枯れた木々の前に立っていた。木々の後ろには大きな貯水タンク群がそびえ立ち、シーカーはもうそこから逃げることはできない。オークには、シーカーが自ら自分を追い込んだようにしか見えなかった。
「さて、反撃と行きましょうか」
シーカーの姿を認めた《アクアホリック》は、歪んだ憤怒の表情でシーカーとの距離を一瞬で詰める。オークは必死に地面に手をついてそれを追おうとするが、立ち上がることすら出来なかった。
しかし悪魔が彼をを喰らうよりも早く。
彼には少し大きすぎるオークの銃をしかと握り締め、シーカーは不敵に笑った。
一発の乾いた銃声が轟いた。

「何……やってんだ……シーカー!お前」
彼の行為に最初に、息も絶え絶えに反応したのはオークだった。
シーカーは悪魔でなく、あろうことか背後の貯水タンクを撃ったのだ。
オークの大きめの銃は破壊力が高く、貯水タンクに大きめの穴があき、そこから大量の水が轟々と放たれる。シーカーは計算していたのか、その水をもろに受けた悪魔――小さな少女の態をとったそれが、大量の水をその小さな体に一身に受けた。
オークは知っていた。そのタンクは《アクアホリック》の襲撃に備え調達した大量の聖水を貯めているタンクであることを。先程の戦闘で、聖水は《アクアホリック》にはその効果を発揮できないどころか、逆に力を与えてしまうことになるとわかっているはずなのに。
「そいつが……水系の悪魔だってことを、……忘れたのか!奴の力を増幅させ、る……つもりか……!?」
「逆ですよ」
シーカーは涼しい顔をして、二発、三発とタンクに穴を開けていく。その全ての穴から迸る水が悪魔に降り注ぐ。水圧に必死に抗おうとする悪魔。
「貴方こそ忘れたのですか、この悪魔の名前を」
《アクアホリック》。
即ち、《水中毒》。
水を欲するがあまり、大量の水を摂取して中毒症状を引き起こす。
「悪魔は言いました。不死身になるのに、相応のリスクを負ったと。《アクアホリック》――自らの弱点をその名に冠すること。これこそが彼女の負った最大のリスク。最初からあらかじめ弱点をその名で晒すという危険を冒す代わりに、アレは大きな力を手に入れた。しかしその弱点は生来水系の能力を持つがためにうまく隠された――と。聖水に耐性があるのは元々の能力でしょうが、それにしても上手くやったものです」
さらりと説明した後、シーカーは先程タンクに銃弾を放ち続けたことで弾丸が無くなってしまったことに気付く。
「そーかい、それは良かった。なら……早く、トドメ刺してこい」
オークが震える右腕を持ち上げる。その手には、彼の血のこびり付いた拳銃が握られていた。
シーカーは黙ってオークに近づき、無言のままそれを奪う。彼の周りに出来ている血だまりを見つめた。
「……一つだけ、約束しましょう。僕はこれからあの悪魔を完全に葬ります。だから貴方も約束してください、こんな所で決して……くだばらないと」
男が本気を出すのは、『誰かと違うことのできない約束をした』時だけだ――。かつてオークはそう言った。「いつでも本気を出すよりも、そっちの方がずっとかっこいいだろ」そう笑った彼は今。
「ああ……約束するさ」
確かに、約束した。その言葉を聞いたシーカーはオークに背を向けて、大量の水に溺れる悪魔の元へと歩き出した。
そんなシーカーの背中を霞む視界の中で見届けたオークは微かに笑った。しばらくして、シーカーに銃を渡すため天に向かって尽きあげられていた彼の右腕は、力なく崩れ落ちた。



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あと一話か二話で完結です!
過去編未来編番外編……たくさん書けたらいいなあ。
私が一番好きなのはシーカー君ですが、周りからは断然オーク!との声多数。
主人公なのに!どんまいける!

自己満足として気ままに載せてきましたが、読んでくれていた方が居たと知って
嬉しくて半泣きになったのがつい先日のこと。
拍手、コメント本当にありがとうございます!
この喜び……ふおおおお

これから試験期間で暫く沈黙しますが、帰ってきたら去年の作品を載せることにします
H&Sとは打って変わって現代モノですよいよいよ。

七夕ですね!
シーカー君は鼻で笑いそうですけど、オークとセルシュが無理やり願い事を書かせてたら楽しそうだなー

今年一年楽しいこと沢山ありますように!!


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コメント
2012/07/07 22:07
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