漆黒

▼Chapter7

(__Go ahead.)





二人が階段を上りはじめた時、ようやくブザーが鳴り響いた。教会内が数回赤く点滅した後、天井からスプリンクラーで大量の水が発射される。
「やっと作動したか」
オークはずぶ濡れになりながら天井を見上げ、ほっと一息ついた。
「これは……聖水、ですか」
自らの体に注ぐ、ブザーによって紅く見える液体を見ながらシーカーは尋ねた。
「ああ。憑依系の悪魔が居た場合、状況はさらにややこしくなるからな。人の皮を被っていようが、聖水をかければ問答無用で実体化する。
その為に貴重な聖水を大量に集めた。これで大分討伐しやすくなるはずだ」
これだけ聖水が吹きつけられていれば、《アクアホリック》眷属の悪魔はほとんどが実体化しているだろう。
そうなれば、後は一体一体攻撃を仕掛けて倒せばいい。
「大規模な聖水の貯水タンクの用意もある。出来るだけのことはした。あとは死力を尽くすだけだ」
「言われなくたって、理解してます……よっ!」
シーカーが最後の六段を一歩で上る。五階、これより先はエクソシスト達の訓練フロアである。
主に悪魔との模擬戦闘を行うための訓練場であり、特に五階はその全てが巨大な模擬フィールドと化している。エクソシスト達は《アクアホリック》の襲撃に備え、その際は主にこの五階で応戦することを決めていた。
ここでなんとか、喰いとめる。はずだった。しかし。
「なんだ、こりゃあ……」
オークとシーカーが見たのは、想像すらしていなかった光景だった。
エクソシスト達は悪魔と戦っている。それは間違いない、けれどこれは、この光景は。
「……大誤算ですね。悪魔の憑依する対象は人ではなく、『水』……!」
シーカー達が見たのは、高さ二メートルほどの大きなスライム状の生物――水に憑依した悪魔たちだった。
「確かに最近、よく雨が降っていました」
意思を持たない水になら、寄生系の下位悪魔でも憑依することが出来る。そして最近よく降っていた雨。
この二つの事実が指し示すこと。即ち今回の襲撃は緻密に練られたものであるということがこれで確定した。
うねうねと動くそれは明らかに明確な意思を持ってエクソシスト達を攻撃している。必死で彼らも応戦するが、床は水浸しであり、倒したそばから新しい悪魔がわいてくる。

何故床が水浸しなのか。答えは単純、先程天井から大量に水がふりまかれたからだ。聖水という、悪魔を実体化・弱体化させるはずの聖なる水が。
「嘘だろ、聖水だぞ」
オークは顔を引き攣らせ、かすれた声で呟いた。
「《アクアホリック》……その名の示す通り、水を操る悪魔。聖水すら自分の力と化す――本来ならばあり得ない事象です。
しかし事実、奴らは聖水に憑依している」
聖水は悪魔に対して絶対の効力を持つ。そんな定説さえもぶち壊されてしまったなら。

既存のルールは一切頼りにならない。そんな中で一体どうすれば。
倒せども倒せども、悪魔が減る気配は一向に無い。しかしエクソシスト達は明らかに疲弊してきている。
まさに地獄だった。
「この悪魔達は倒される寸前に床に満ちた聖水にもぐり、次の体を得ているようです」
「それなら聖水に潜る隙も与えず、殺ればいい」
「そうなりますね」
悪魔が水に憑依しているのなら、実体化などさせずとも水ごと破壊すればば全て片付く。
互いに背中を預け、シーカーの言葉を合図に二人は互いに目の前の悪魔に向かって跳躍した。
目の前で体をくねらせるスライム三体にまとめて正面から銃弾を叩きこむオーク。大きく一度バウンドして再び水に戻ろうとする三体にもう一撃ずつ喰らわせ、とどめを刺す。
一方、シーカーはスライム一体一体に、音の無い銃撃を叩きこんでいった。水に憑依した悪魔が奇声を上げて実体化していく。
実体化するその瞬間が、悪魔の最大の隙であった。タイミングを見計らってシーカーは丁寧に実弾を撃ち、悪魔を葬っていく。
二人が加わったことで悪魔の数もやっとのことで減り始めたが、シーカーとオークはこんな所でもたもたしているわけにはいかなかった。
今この時にも、これらの悪魔の本体《アクアホリック》は何処かで誰かと戦い、そしておそらくその命を奪っている。
『強い』エクソシストなら掃いて捨てるほどいるが、果たして《アクアホリック》を満足させ、あわよくばそれを倒す可能性を持つエクソシストが今の教会内にどれだけいるだろう。
「シーカー、お前先に行け」
オークがそう言うのは時間の問題だとシーカーにはわかっていた。
この場を一刻も早く離れなければ、《アクアホリック》と戦闘中の誰かが死ぬ。
かと言ってこの場を離れてしまえば、今このフロアで悪魔と戦闘中のエクソシスト達が死ぬ。
どちらかを選ぶ、即ちどちらかの命を優先させる選択などオークに出来るはずが無かった。
「此処は俺が死んでも喰いとめる。ここより先一歩たりとも悪魔を進めさせねぇ。だからお前は先に行け。お前の目があれば奴の弱点を見抜ける、そうだろ?」
「嫌です」
背後から迫ってきた一体を振り返ることなく撃ち殺し、シーカーはすました態度でオークの提案を断った。
「僕一人で奴を倒す?冗談じゃありませんよ、そこまでうぬぼれていません。
貴方が居ないと倒せないんです、分かっているでしょう!言わせないでください」
シーカーが優秀であることは間違いないが、経験不足が目立つのはオークもよく知っている所だった。
シーカーが自分の非力を認めるのはこれが最初で、おそらく最後かもしれない。プライドの高い彼が非力を認めるほど事態は緊迫していた。
「僕にはまだその力が無い。先に進むべきは貴方ですオーク!」
シーカーが吠え、悪魔を踏み台にさらに高く跳躍、威嚇射撃を数発放ってオークの元へ着地、再び背中を合わせた。
背中を互いに預け合ったまま回転し、全方向の悪魔を二人で交互に仕留めて行く。
「無理するな。敵を仕留める速度が遅くなってきてんだろ、こんな所で無駄な体力使わず早く行け」
実際、シーカーは少しずつ疲労していた。けれど、腕が動く限りオークとともに戦っていたいと思ったのも事実だった。
と、二人が立っていた床が一度たゆむ。
「下です!来ます!」
二人の足元に滑りこんだ悪魔が二人を喰らおうと下から襲いかかる。
二人はとっさに真上に跳躍したものの、タイミングを見計らったかのように周りを別の悪魔達に囲まれ、逃げ場が無い。つまり。
着地するその瞬間に、喰われる。
「うおおおおおおおおお!」
シーカーが本能でそう悟った瞬間、横でオークが絶叫するのを聴いた。空中で無理やり体をひねらせ、シーカーに渾身の蹴りを喰らわせる。
シーカーにはオークが何をしようとしたのかすぐにわかった。
「……っ!やめっ、貴方…っ!」
皆まで言うこと叶わず、シーカーはオークによる衝撃を受けて悪魔ごとフロアの壁まで吹っ飛ばされる。自分が犠牲となることで、オークはシーカーを悪魔の包囲網から抜け出させたのだ。
しかしそれではオークが。
壁に叩きつけられ、眼が覚めるような痛みを、衝撃を背中に感じながらシーカーは、オークがスライム型の悪魔に飲み込まれるのを見た。




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オーク頑張ッテー(´ω`)!

やっと半分超えました!
番外編もちょこちょこ書いてますー楽しいようふふ
完全な自己満足ですがだがそれがいい…!
もし、もしも誰か見てくれてる人がいたら嬉しすぎるけど多くは望みません!

書いてるだけで楽しいのは久し振りですから!
過去作品載せようか迷う、ジャンルがなーがっつり変わるからなー



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