03

夢を見た。覚えてないけど、とても嫌な夢。なんでだろう。ぼーっとした意識の中でふと左腕を見た。
「…あ」
やっちまった。そう思った。右手に握っていた包丁。…あーあ。
「やっちゃったなぁ…」
手当しないとヤバイ。そう思いつつも未だにぼーっとする頭。やばいかな、これ。

何度も思った。左腕がなければ、と。利き腕がなければ、と。そうしたら諦められたのに。なんて未練タラタラな自分に嫌気がさす。吐くくらい嫌いなのに、どうしても中で野球したがってる自分のいるのかな。肩を壊しても反対の手でやる奴だっている。なのにやらないのは、俺がやりたくないから、だ。
(これがトラウマってやつなんかな…)
「春臣ー、お前これどうしたの?」
おはよー、と言いつつ桐野は高橋の腕を指さした。あ、血が滲んでる。洗えばとれるか。
「怪我。なー桐野、血ってどうやってとめんの?とまんないんだけど」
「血滲んでんもんなこれ。何?薬塗ってねーの?」
「消毒した」
「ふーん、保健室は?」
「嫌だ」
「じゃ、怪我したとこちゃんとくくっとけよ」
そういって包帯を縛り直す桐野。手鳴れたように巻いていった。「きつくない?」そう聞く桐野に高橋は痛くない、と返した。
「高橋、今日部活見学しない?」
「は?俺帰宅部」
「俺の付き合ってくれよ。一人って結構寂しいんだからな、部活見学。あれ?友達いないの?って感じになる」
「…仕方ねえなあ、どこ回るんだ」
「手始めに文化部見てから、運動部」
運動部。その言葉に反応した高橋を、桐野は見逃さなかった。

「文化部、どれも良いもんねーなぁ」
そうだれる桐野に「お前って文化部似合わねーもんな」と高橋は笑った。手芸する桐野、絵を描く桐野、パソコンする桐野とかキモイだけだ。そう笑われると流石に桐野も恥ずかしくなる。
「でもお前楽器吹けるんだな」
「あー吹部?やだよ行くだけ行ったけどな。あそこ厳しいんだもん」
「まあ、厳しいイメージあるらしいな。俺んとこなかったからしらねーけど」
吹部がいかに文科系でなく運動部であるかを力説する桐野と共に下駄箱まで来る。靴を履きかえながら、桐野はバスケ部見ようか、と言う。
そして、もうほとんど見終わったくらいのとき。そろそろ帰ろうと言う高橋に桐野はじゃあ次で終わるから、と歩かせる。
「どこいくんだ?」
「グラウンド。色々あんだろ」
「…へえ」
顔を下げたまま歩く高橋。そんな高橋を見て桐野は笑った。カキィン!綺麗な音がした。バットで球を打った音。高橋は思わず顔を上げ音のする方を見た。そしてまた下を向く。
(…桐野は野球を見に来たんじゃないたまたまだ、たまたま、たまたまだから見なきゃ良い。だから気付くなよー!)
「あー!昨日の!」
「いッ!見つかった!?」
昨日の女に見付かった。最悪だっ、こっち来る!そう戸惑う高橋に桐野は首を傾げた。知り合い?と。
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