「だんちょー、だんちょー」

「なに?」

「あーそーぼ」

「…だってさ阿伏兎、ついでにコイツの相手も頼むヨ」

「俺ァ今、もンのすごーく忙しいんですがねェ」


それくらい見りゃあわかるだろうに。山のように溜まった書類仕事を人の机に積み上げた挙げ句今度はガキのお守りまで押し付けようってのか。大体俺は机仕事苦手なんだよなあ。書類もお守りもこの際面倒だからとバッサリ断れたなら苦労はないが、どうにも悪魔のような天使と天使面した悪魔に目の前でにこにこされちゃあなかなかそれも難しい。
仕方無い、と溜め息混じりに筆を置けばガキと一緒に団長まで万歳をはじめた。そんなに暇なら自分で溜めた仕事の一つくらい自分で片付けたらどうなんだ、ホント


「で?なんの相手すりゃいいって?」

「さあ」

「はいはーい、じゃああたし鬼ごっこがしたい」

「うわあ面倒くさい」

「…本物の鬼がいる鬼ごっこか」

「それどういう意味?」

「あー…どういう意味だったかなー」

「ああ、なる程」


お前を捕えたその時はお望み通り殺してあげるよ阿伏兎、そう言って殊更ニコニコと笑う鬼もとい団長。誰がそんなおっかねえ事望むかってんだ、このすっとこどっこい


「ねえねえ早く鬼ごっこしよーよー」

「よし、じゃあまずは阿伏兎が鬼だ」

「おかしいだろ、そこはまずジャンケンだろ普通」

「団長の命令は?」

「ぜったーい!」

「おいおい、鬼ごっこに王様ゲームのルールぶち込んできやがったよこの人は」

「はいあぶと、今から十万数えてね」

「あーあー…こーんなガキにもすっかり団長の横暴が移っちまってもう。一旦十まで数えるからさっさと隠れろ」


漏れる溜め息もそこそこに、目を瞑ってホラ行けと数を数える。いーち、にーい、さーん。小走りの足音が遠ざかって、そして聞こえなくなった。しーい、ごーお、ろーく。団長はともかくあのガキはうまく逃げただろうか、やはりあまり早く捕まえてしまうのも良くない。とは言え命懸けで団長を追いかけるつもりもない。しーち、はーち、きゅーう、じゅう。まあ考えても仕方ないかと、開けた瞼が目前の光景に数回瞬いた。


「え、団長アンタ…鬼ごっこ始まってますよ」

「だから?」
「だから逃げないと俺に捕まってアンタが鬼に…」

「お前が俺を捕まえようなんて百万年早い」

「……え、これなんの圧力?」

「そんなことより、早くしないとあっちの獲物も逃げちゃうぞ」

「ああそうですねー、俺には団長なんて見えませんよコンチクショー」

「ぎゃっ!」

「げ」

「あ、転けた」

「つうかまだ隠れてなかったのかあの馬鹿」

「…うわああん!あぶとー、いたいよー」

「あーらら、泣いちゃったよお父さん」

「だれがお父さんだオイ」

「あ゙ーぶーどぉおお」

「ほらほら、不細工な顔してお前の事呼んでるよ?」

「っかぁああ!はいはい行きますよ行きゃあいーんでしょ」



101002 第七師団
チャレンジ精神の暴走。


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