じゃあ、またね。

あの晩からもうどれだけ日が過ぎたのか。数えるのも億劫になる程、そう言う方が幾分簡単だ。あれきりパタリと連絡どころか街で見掛けることも無くなったあの女は、一体今頃どうしているのやら。ついには部屋で微かに漂っていたアイツの残り香までも消え去り、残されたのは記憶と想いと繋がらない携帯番号だけ。あれほど足掻いた結果がこれだ、考える度になんとも言えない焦燥感が押し寄せる。


「くそ…っ」


くわえていた煙草を灰皿に押し付けるように揉み消して、仰向けに寝転がる。最近どうにも苛々していて仕方がない。分かっている、これこそが俺の恐れていたものなのだから。それでも俺はこれほどまでに女々しく情けない人間だったのかと、絶望さえした。あの女を忘れられないという醜い未練。


「もう何もかも失ったと…そう、思っていた」


諦めていた。いや、諦めたフリをしていただけだ。あの時はまだ、全てを失ってなどいなかったとしたら。そもそも何を失ったと思っていたんだ?確かに俺とアイツの関係は、心の伴わない傷の舐め合いのようなもので。不安定以外のなにものでもなかった。それでもアイツは其処に居て、手を伸ばせば触れることが出来た。あの細く頼りない体を引き寄せ抱きしめることだって出来たかも知れねえってのに。求められた居場所に、自信が持てなかった。手放したくないと思えば思う程、手に入れることにまで臆病になっていた。それ故に、最後の最後でアイツを突き放したのは自分なのだ


「…バカか、俺は」


そう、何を考えても悔やんでも最早意味を成さない。何故ならアイツはもう居ない。今度こそ本当に全てを失ってしまった。ぐにゃりと視界を歪ませるこの感情も、行き場のない想いも。なにもかも。
携帯を手に取り、押し慣れた番号をダイヤルする。耳に押し当てたそこからは、やはり今日もすっかり聞き慣れてしまった返事が返ってきた


『お掛けになった番号は、現在使われておりません』


100518 土方


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