億劫な瞬きの合間に、酷く焦燥した様子の隊長が映る。普段見慣れぬその表情に一体どうした事かと起き上がろうとするも、体が重くて身動きがとれない。あちらこちらで聴こえてくる激しい叫び声、鼻を摘みたくなる程の血生臭さ、それに火薬の臭い。
まさに戦場のど真ん中、そんな場所で仰向けに転がったままの自分につい嘲笑してしまう


「隊長…」

「なんでィ」

「今日の空はとても高いですね」

「ああ本当、憎らしい程高ェや」


隊長はそうポツリと呟いた後ゆっくりと空を仰ぎ、続いて深く息を吸う。


「…こんな時に、と思うだろうが」

「…?」

「俺ァ、あんたの事」

「……」

「好きだった。ずっと前から」


空を仰ぎ見たままで表情までは窺えないが、隊長の噛み殺したような嗚咽を聴いた時、自分の死がすぐ其処まで迫っているのだと漸く気が付く。嗚呼どうしてこう、何事も気が付いた時には既にどうしようもない事態に陥っているのだろうか。神さまに会ったら、まずはそのサディストも大概にしろと延々説教して差し上げようと思う。


躙りよる予感


遠退いていく意識の中。じわりじわりと迫り来る死の瞬間にと言うよりも、手から伝わる隊長の心地よい体温が徐々に遠のくような感覚に震える程の恐怖が体中を駆け巡った。


080129
→1002再録

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