政宗さまが面倒な政務をほったらかしてふらりと居なくなることは、割とよくある。ただ、その都度小十郎さまの頭には二本の角がにょきりと生えて不穏な暗雲が城内に立ち込めるのだ。もうそうなると誰にも手が付けられない


「政宗様を探してこい!」


熱り立つ竜の右目からそう言いつかり、さっそく主君のお迎えに向かう。全く。政宗さまも懲りぬ御方だ、一度発生した小十郎さまの雷は必ず落ちる。積み重なった書類も勝手に片付くことはない。逃げようが隠れようが、つまりはただの時間稼ぎに過ぎないと十分すぎるほどご存知の筈なのだけれど


「…やはりここでしたか」

「Shit!またてめえか、相変わらず鼻のきく女だ」

「お褒めに預かり光栄でございます」

「褒めたつもりはねえ」


城下を見下ろせる丘陵。幾度となく繰り返されてきた逃走劇は九分九厘、此処で終いを迎えている。どうやら此処は一番のお気に入りらしい。案の定、草の上に寝転がっていた政宗さまが不機嫌そうに舌を打った


「小十郎さまが探しておいでですよ、そりゃあもう鬼のような形相で」

「Yaだったら戻って小十郎に伝えな、息抜きくらいで一々目くじら立てんじゃねえと」


その息抜きがあまりにも多い所為で、肝心の政務がまるで進まない。只でさえ多忙な右目殿の辛労は日に日に深まるばかり。本当に頭の下がる思いだ。そのくせ自分は、仰せつかる政宗さま捜索の任をまるでかくれ鬼のようだと楽しんでいたりするものだから、面目もなにもあったもんじゃない


「あの政宗さま?その息抜き、私もご一緒してよろしいですか」

「AH?どういう風の吹き回しだかしらねーが、アンタも小十郎の小言を聞く羽目なるぜ」

「ここまで走って参りましたので些か疲れました。それに、私一人戻ったところで同じこと。叱る相手が二人となれば、雷の威力も半減するやもしれませぬ」

「Okey-Okey.好きにしな」


そうしてたっぷり日が暮れるまで息抜きをした私達は城に戻るなり、半減するどころか二倍に威力を増した雷を小十郎さまによって延々に落とされ続ける結果になった。政宗さまの隣に寝そべり雲を眺めながら、心の中でそっと述べておいたお詫びの言葉などはことごとく無意味だったらしい


敢えなく背馳


081120 政宗

- ナノ -