「ねえ、ブランコしようよ晋助」
「あ?一人でやってろ、俺ァ帰るからよ」
「どうせ今日そろばん塾休みで暇なんでしょ」
「暇じゃねえ、ストーカーかてめえは」
「自惚れんな、河上くんから聞いたんですー」
万斉の野郎、面倒くせえ事しやがる。しつこく誘ってくる女をなんとかやり過ごし、正面に設置されていた小さく低い柵に腰掛け煙草をくわえた。不服そうに唇を尖らせはしたが漸く諦めが付いたようだ
「けち」
「言ってろ」
それでもガキの遊具に対する関心までは諦めきれなかったらしい。不安定に揺れる板へ座り、テクニックを披露してやるだなんだと高らかに豪語する。どうせ落ちて怪我のひとつふたつ残すのが関の山だからやめておけという忠告なんざどこ吹く風、バカにすんなよと吐き捨てる始末。これだから本物の馬鹿は嫌になる、いっそ頭でも打ちゃあちったァマシになるかもしれねえが
「あ、なんかいけそうな気がする。風と友達になれる気がする」
「何よりじゃねーか」
次第に幅が大きくなっていく振り子の上で器用にも立ち上がり、訳の解らない事を楽しそうに叫んでいる女にはほとほと呆れる。溜め息混じりにくわえた煙草へ火を点けようとして、ふと視界に入った看板で手を止めた。公園全面禁煙。
「…ふざけんな、帰る」
「は?何、どうしたの突然」
半円を描く程幅の広くなった振り子の上ですっかり慌てふためく女がその運動を止めようとするが如何せん、容易にとはいかないらしい。その様子に、ざまあみろとほくそ笑み背を向けた
「待て待て晋助、帰る前にこれ止めるの手伝って!お願いだから」
「心配あるめェよ、お前は飛べるようになった」
「明らかな嘘言ってんな、バカ杉めっ」
誰がバカだ、誰が。しばらくその上で我慢してりゃあ、その内止まるだろうが。てめェの面倒はてめェでみやがれ。
広い公園を横切り出入り口まであと数歩というところで、ああそうだ、と足を止めた。このまま無視を決め込み帰るつもりだったが、よくよく考えるとこの状況であの間抜けが怪我をしなかったのは奇跡だ。祝いとまではいかないが、ささやかな餞別でもくれてやろう
「オイ、」
「なっ何ですか晋助さん」
「どうせなら、もっと色気のある下着はきやがれ」
眩むように、青い午後080806 高杉/ナイト