「晋助大変だ、あんな所にご老人が!」

「あ?」

「道に迷われたのだろうか、散歩の途中で休憩なさっているだけならいいのだけど。それにしてもやけに童顔な御方だね、背丈や身なりだけ見るとまるで私たちと同じくらいの少年にみえなくもないよ」

「おまえの目は節穴か、ありゃあどうみてもガキだろ」

「え、でも見てよ。あの立派な白髪」

「白じゃねえ、銀だ。妙な色してやがる」

「銀?」


そよ風に揺れるその髪の色は些か判別し難いが、透けように薄い色というのは明白で。やはり銀より白に見えるが、ここで晋助と言い争う気はさらさらないので取り敢えずそれは横に置いておく。
ご老人は縁側に腰をおろし、ぼんやりと茜空を見上げていた。草むらに隠れて様子を窺っている此方にはどうやら気が付いていないようだけど、一体どうしてあんな所に居るんだろう。もしも本当に迷い込んでしまい途方に暮れているのだとしたら、早急にお声をお掛けした方がいいのではないか


「ねえ晋助、やっぱり先生に知らせた方が良いんじゃないかな」

「だからガキだっつってんだろ。いいから放っとけ、その内勝手に居なくならァ」

「アンタってば薄情な奴だね、本当にご老人だったらどうすんの!」

「彼はご老人でも迷子でもないよ」


突然背後から聞こえた声に驚いて、晋助と揃って草むらから転がるように飛び出した。すっかり腰を抜かした生徒を見てすまなそうに眉尻を下げる先生の様子から察するに、どうやらこんなにも驚くとは思っていなかったらしい。とても心臓に悪い誤算だ


「せ、先生!」

「どうしてここに?」

「驚かせて悪かったね。草むらから何やら楽しそうなヒソヒソ話が聞こえたものだから」

「あ!それより先生、あの人ご老人じゃないって本当ですか?」

「本当だよ。ああ、ほら銀時も此方に気付いたようだ」

「え、」


紹介がまだだったねと続く先生の言葉に振り返ると先程まで縁側に座っていたご老人は消え、代わりに少年がけだるそうに此方へ歩み寄っていた。隣に転がっていた晋助が小さく「ほらみろ」と言ったけれど、それが果たしてギントキと呼ばれた少年の髪色と年齢的事実のどちらに対する言葉だったのか。最早そんな思考を巡らす余裕さえ、私には残ってなどなくて


「それ、なんかの遊び?」


ただ日の光にキラキラとこたえる銀色の髪がとても綺麗だと感じることに精一杯で、差し伸べられた彼の手をなんとか掴む頃にはあの真っ赤な夕日でさえもこの銀色に染まってしまうのではないかと思ってしまう程だった


はてさてそれから


080605 幼少坂田/ナイト

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