「見つけましたよ隊長」
「あらら。すみません旦那、迎えが来ちまったんで俺ァ帰ります」
「おー、ご馳走さん」
副長に命じられた市中見廻りなど、どうやら隊長にとってはサボりの契機でしかないらしい。これには毎度ウンザリさせられているが、経験上、放っておいて後々面倒な事になるのは我が身である。必死に街中駆けずり回って漸く見つけた上司を、もう何度斬りつけてやろうかと思ったか知れず。ひらひらと呑気に手を振る万事屋に軽い会釈でサヨナラを告げ、次は逃がすまいと隊長を追った
「見廻りくらいちゃんとしてくださいよ」
「あれも立派な見廻りの仕事でさァ、一般市民からの情報収集」
「甘味屋の新商品情報なんざ仕入れてなんの役に立つっつーんですか」
「さあ」
あー嫌だ嫌だ。これだからこの人には付き合っていられない。ただでさえ公務というのは面倒なのに、遅いだとか連帯責任だとかで副長にしこたま怒鳴られるのは真っ平御免被る。あの鬼を怒らせる事だけは極力避けたい。とっとと見廻りをすませて屯所に帰ろう
「皺」
「…なんですか」
「眉間の皺。女がそんなとこに皺寄せるもんじゃねえや、せっかくの別嬪が台無しだ」
「はいはい。私をおだてたって見回り免除なんてことにはなりませんよ」
「ちぇ」
隣でワザとらしく口を尖らせる隊長に呆れながらも仕事を進める。あの先にある角を曲がれば屯所は目と鼻の先、もう少しの辛抱だ。急ぎ足になるのをやっとの思いでこらえながら歩みを進めていると、少し後ろを歩く隊長に首根っこを引っ張られ、ぐえ、と情けない声が漏れた
「ちょいと待ちなせェ」
「いきなり何するんですか、殺す気?」
苦しさで涙目になりながら何事かと振り向いてみれば、何やら小さな包みを手に渡され甘い匂いがふわりと鼻を掠める
「え、何ですか?コレ」
「見りゃ分かんだろ、団子でさァ。因みにソレ、旦那のイチオシらしいですぜ。それでも食ってその皺伸ばしなせェよ」
「私に?」
間の抜けた声で問えば、てめー以外に誰が居るってんだ、と返された。それもそうだがあの隊長がわざわざ、しかもあの万事屋御墨付きの団子を私の為に買ってきてくれるだなんて普段が普段なだけにどう反応すべきか迷う。もしかしたら明日地球が滅亡するのかもしれない、それなら少し納得出来た。とは言え上司の有り難い気遣いにはキチンとお礼を言うべきだろう。今更だけども、我ながら失礼な思考回路である
「隊長」
「なんでィ」
「あの、ありがとうございます」
「ただし土方さんには内緒ですぜ?」
そう言って自分の口元に人差し指をあてると、他の隊士たちにもと付け加える。それから少し悪戯っぽく笑って先に歩き出した隊長の背を慌てて追いながら、決して団子につられたワケではないがこの人との見廻りもたまには悪くないかも知れないとこっそり思ってみたり
「土方さーん、此処に公務中に団子食ってる奴がいますぜー」
「んだとコラ、仕事ナメてんのかテメェ!」
「ちょ、ちがっ…ええええ!」
前言撤回
091202 沖田