「銀ちゃん、知ってる?」
あまり座り心地の良くない安っぽいソファーに、二人。持っていたリモコンで次から次へと番組を変えながら如何にもつまらなそうに「なにを」と銀ちゃんが答えた。
「ガムとチョコ一緒に食べると、ガムがとけてなくなるんだって」
「へぇ、マジでか」
「マジだよ」
「あー…ナメクジに塩をかけると溶るだろ、あれと一緒?」
それはちょっと違うと思う。が。詳しい理由は知らないので、とりあえず肯定とも否定とも取れない曖昧な返事をしておいた。おそらくチョコにはガムを溶かすとか分解するとかの成分か何かが含まれていて云々。なんかそんなんじゃないだろうかと予想はできるけど、ナメクジと塩についてはまるで見当もつかない。でも因果律
「ていうかさ、溶けるって相性がいいのかわるいのか分かんないよね」
そう言えば時々、この人の広い胸に抱きしめられるとそのままとけてしまいそうな感覚に陥ることがある。銀ちゃんにとけてしまうのは正直うれしいようなこわいような、すごく複雑で
「それならいっそ溶け合うって言い換えりゃいいんじゃねーの、そうすりゃなんか相性良い感じになるじゃねェか」
そんな風に思ったのはきっと、為す術もなくただチョコにとかされるだけのガムになるのはどうしても嫌だったから。飲み込まれてしまうみたいで怖かったのだ。けれども、とけ合うという言葉がそれをいとも容易く解決してくれた。もともと二つだった存在が合わさって一つになる、それはすごくしあわせなことに思えて仕方がない。個人的ニュアンスの問題なので一体なにがどう違うのかはちょっとばかり説明しがたいのだけど
「じゃあさ、ガムはチョコととけ合ってハッピーエンドだったワケ?」
「そうだよ。二人いつまでも仲良く暮らしましたとさ、めでたしめでたしー…つーワケで、俺とお前も溶け合っちゃおーぜ。みたいな」
「いやいやおかしいよね、それどんなワケ?なんでもそっちに繋げないで変態、みたいな」
あーあ、くだらない。楽しそうに笑う銀ちゃんはただの変態で、小さなことにこだわってる私はただの面倒くさい女で。いつの間にか定まっていたテレビの画面では、何とかっていう偉い人がなにやら小難しいことを尤もらしく語っていたけれど。もうそれさえもバカらしくなって、あたたかくてやさしい腕に身を委ねながら、リモコンの電源ボタンに手を伸ばす
091010 坂田