のどあめ
「げっほげほ、あ゛ー」
「ひっでー声だな、なんだ変声期か」
「ちげーよ。朝から喉痛くてさあ、風邪でも引いたかな」
「いやいやお前に限って風邪はあり得ねえから心配すんな」
「え、なんで?」
「なんでってそりゃ勿論有名な迷信に則ったに決まってんだろーが。よってお前のそれはどう考えてもあれだよ、声変わりだよ」
「バカって言いたいのかバカだから風邪引かないって言いたいのか」
「そうだよ」
「どう考えてもこれは風邪だよ、バカはお前だ」
弁当を広げようとしていた私の机に、棒付き飴をくわえた坂田がどかりと座る。それから一丁前に〜だとかバカのくせに〜だとか、何やら不満そうにブツブツ言うと今度はガリガリ飴を噛みはじめた。どうでもいいから早くそのケツ退けろよ。そもそも、紛れもなくバカの申し子であるコイツにだけは馬鹿とか言われたくないんですけどもね。ああもしかして僻みか。私は馬鹿じゃないことが証明されたから僻んでるのか。ぷぷ
「ったくよォ、拗らせる前にさっさと早退して病院行ってこい」
「やだよ、だって注射とかされたらどうすんの。怖いし痛いし無理無理」
「ちょっとチクっとするだけだろーが、蚊に刺されるのと大して変わんねーって」
「そのチクっが怖いんだよ、お前本当バカ!蚊なんかと一緒にすんな」
「餓鬼ですかおめーは。あんまり叫ぶと余計喉痛めんぞ」
ああガキだよ悪いかこのやろう。怖いもんは怖いんだから仕方ないじゃないか。大体アンタだって注射キライだろ、毎年予防接種とか全部サボってんだろ。ちゃんと知ってんだぞ。ふん、ざまあみろ。
「ねえそんなことより坂田のどあめ持ってない?のどあめ」
「あ?んなもん持ってねーよ、口ん中スースーするもんあれ」
「ガキはどっちだ。じゃあ普通の飴でいいからちょーだい」
「わりーな、今舐めてんので最後なんだわ」
「だったらそれよこせ」
「おいおいなんですか、そんなに銀さんと間接ちゅうがしたいんですか?」
「はあ?ばっかじゃないの、誰が間接ちゅっぐ、げほげっほ」
「あーはいはい銀さんが悪かった。変なこと言ってごめんね」
面倒くさそうに言いながらも、坂田は激しく咳き込む私の背中をさすってくれた。どうもありがとう、すまないね。いつもなんだかんだ言ってるけど本当はすごく優しい男だったりする、のかもしれない。未知数である。兎にも角にもバカとか言って悪かったよ。ときに坂田くん、私の背中にあるその手の小指で先程手前様のお鼻の穴を開拓してはいなかっただろうか。見間違いだろうか
「飯食ったら保健室行って寝とけ、先生に言っといてやっから」
「坂田がつきっきりで看病してくれて、尚且つ隣でリンゴむいてくれるならそうする」
「なんでだよ。俺はおめーの母ちゃんか」
「あり、違うの?」
「こんなわがままなクソガキ産んだ覚えありません」
090215 坂田/たかい