これといってやる事もなく、こたつで暇を持て余す寝正月。褞袍を羽織り俺の向かいに座ってぬくぬくとミカンを頬張っていた女が、如何にも億劫そうに口を開いた


「銀ちゃーん、ティッシュとって」

「あ?目の前にあんだろうが」

「手のばすの面倒くさい」

「ふざけんじゃねえぞ、この三段腹」

「銀ちゃんの助平!なんで私の腹が三段になったって知ってんの」

「マジでか」


前々から福袋を買うとかなんとかで張り切っていたヅラはどうやら辰馬と高杉を荷物持ちに引き連れ、この寒空の中出掛けたらしい。昼過ぎ、ヅラの几帳面な字で仲良く留守番をしていろと書かれた置き手紙を居間で見つけ、しめしめ寝坊もするもんだなと居残り組みはこうしてこたつでほくそ笑みつつ土産の帰りを待っているわけだが


「たっくよォ、見事に正月太りしやがって。ちったあ動きやがれ」

「うるさいなあ。そういう銀ちゃんも立派な贅肉腹にこしらえてんじゃん、この餅太り」

「違いますー、これはあのアレ。妊娠…」

「………」


うん、嘘ついた銀さんが悪かったからその蔑むような目をやめなさい。なんか悲しくなるから。仕返しに、女が時間と手間をかけあの白いやつまで丁寧にきっちり剥いたミカンを横取りして一口で食ってやれば、コタツの中で思い切り足を蹴り飛ばされた。すみませんでした


「あそうだ、思い出した」

「なにを」

「去年もらった歳暮のなかにいい酒があったんだ。ヅラ達遅いし、一足先にいただいちゃおう」

「バカ言え、真っ昼間から酒なんざ呑むもんじゃねえよ」

「めでたい正月なんだから堅苦しいこと言うなよ、うぜえな」


そう吐き捨てるなりヨイショと立ち上がって数秒もせぬうちに台所から高そうな一升瓶と、それからどこで見つけたのかうまそうなつまみをどっさり抱えて意気揚々と戻ってきた。腕を伸ばすだけでもあれほど億劫だなんだと喚いていたくせに、酒のこととなりゃ話は別らしい


「さあ呑むぞー」

「呑むぞっておめー、そりゃ辰馬に届いた酒じゃねえか」

「いんじゃね?どうせ覚えてないよ、バカだから」

「ひでえ言われようだな、今頃くしゃみ連発してんぞ辰馬のやつ」

「はい、銀ちゃんのコップ」

「…あとでアイツに何言われてもしらばっくれっからね、銀さん」
「そりゃないぜ、共犯者」


とくとくとくとく。
鼻歌まじりの女によってニつのコップになみなみと酒が注がれていく様を、なんだかんだまんざらでもないので黙って見守る。でもまあまさか真冬に燗酒でなく冷や酒呑まされるなんざ思ってもみなかったが、この際それもいい。一升瓶をドンと畳に置いて、女は満足気にコップを高くかかげた


「そんじゃ乾杯の音頭をとらせていただきます!」

「ちょ、待て待てお前これ入れすぎだから。みろこの表面張力」

「えー昨年は、いや昨年もいろいろありましたが今年も張り切って世話になりますどうぞよろしく」

「張り切って自立しろ、そして人の話を聞こう。乾杯どころかコップも持てやしねえよ、手ぷるぷるしてっからマジで」

「それから、」

「なに!まだなんかあんの」

「今年も再来年もそれからもっとずっと先の年も、ヅラと辰馬と晋助と銀ちゃん、みんなで一緒に正月を迎えられますよーに」


かんぱーい、安っぽいコップが強引にぶつかり案の定こぼれ出る酒。もったいないもったいないと騒ぎ慌ててそれを啜り飲みながら、願わくばコイツの祈りが八百万の神々に聞きとどけられたらいいと柄にもなくそんなことを考えた


「因みにつまみは晋助に贈られたお歳暮から拝借してきましたー」

「言ってるそばから、さっそく命知らずな行動してんのわかってる?お前」


090424 坂田
◎月見に続き今更正月っていう…
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